「AIが作った契約書」と「自社に合った契約書」は何が違う?
「契約書を作るなら、ChatGPTなどのAIに作ってもらえばいいのでは?」
そう考える方も増えてきました。
実際、AIに「業務委託契約書を作って」と依頼すれば、短時間でそれらしい契約書が出来上がります。
条項も一通りそろっていて、文章も自然です。
では、その契約書は本当に「自社に合った契約書」なのでしょうか。
ここには、意外と大きな違いがあります。
AIは「契約書」を作れても、「自社の取引」を知らない
AIを使って契約書を作ること自体は、決して難しいことではありません。
例えば、
「Web制作を外注するときの業務委託契約書を作ってください」
とAIに依頼すれば、業務内容、報酬、納期、秘密保持、知的財産権、損害賠償など、一般的に必要とされる条項を含んだ契約書を作成してくれます。
しかし、AIが知らないのは「今回の取引の具体的な事情」です。
例えば、同じWeb制作の業務委託でも、
・誰が誰に依頼するのか
・何を制作するのか
・どこまでが業務範囲なのか
・修正は何回までなのか
・納品後の修正はどうするのか
・制作物の著作権を誰が持つのか
・実績として公開してよいのか
・報酬はいつ支払うのか
・途中でキャンセルされた場合はどうするのか
・納品物に不具合があった場合はどうするのか
など、契約書の内容を左右する事情は会社や取引ごとに異なります。
つまり、AIは「一般的な業務委託契約書」を作ることはできても、それだけで「自社の取引に合った業務委託契約書」になるわけではありません。
「それっぽい条項」が入っているだけでは十分ではない
AIが作った契約書を見ると、
「必要なことは全部書いてある」
と感じるかもしれません。
しかし、契約書で重要なのは、条項の数ではありません。
大切なのは、その条項が今回の取引に合っているかです。
例えば、AIが作った業務委託契約書に、
「受託者は、成果物を納品するものとする」
という条項が入っていたとします。
一見すると問題なさそうです。
ところが、実際の取引では「毎月コンテンツを制作して納品する」という契約だった場合、単発の成果物を納品することを前提とした契約なのか、継続的に業務を行う契約なのかによって、考えるべきことが変わってきます。
また、
「納品後、発注者の検収が完了した時点で報酬を支払う」
という条項があったとしても、
・検収は何日以内に行うのか
・発注者から連絡がなかった場合はどうするのか
・修正が必要になった場合はどうするのか
・検収後に発見された不具合はどうするのか
といった点が決まっていなければ、実際の取引では問題が残る可能性があります。
契約書は、条項が「ある」ことだけで安心できるものではありません。
自社に合った契約書は「取引の設計」から始まる
では、「自社に合った契約書」とは何でしょうか。
それは、単に文章をきれいに整えた契約書ではありません。
自社が実際に行う取引の内容に合わせて、契約上のルールを組み立てた契約書です。
そのためには、まず契約書を書く前に、
「今回の取引では、何を約束するのか」
を整理する必要があります。
例えば業務委託契約であれば、
① 何を依頼するのか
業務の範囲を明確にします。
「Web制作」といっても、企画、デザイン、コーディング、公開後の保守など、どこまで含まれるのかによって内容は変わります。
② いつまでに、何をするのか
納期や業務期間を決めます。
単純な納品日だけでなく、途中の確認や修正などがある場合には、その流れも考える必要があります。
③ お金はどうするのか
報酬額だけでなく、
・支払時期
・支払方法
・追加作業が発生した場合
・キャンセルになった場合
なども整理します。
④ 成果物を誰がどう使うのか
制作物を伴う契約では、著作権などの権利関係も重要になります。
「納品したから発注者のもの」と単純に考えられるとは限りません。
⑤ トラブルが起きたらどうするのか
契約どおりに業務が行われなかった場合や、途中で契約を終了したくなった場合など、問題が発生したときのルールも必要です。
このように取引の内容を一つずつ整理したうえで、それを契約書に落とし込んでいきます。
AIは「契約書作成の敵」ではない
ここまで読むと、
「それならAIを使わないほうがいいの?」
と思うかもしれません。
そういうことではありません。
むしろ、AIは契約書作成において非常に便利なツールです。
契約書のたたき台を作ったり、条項の候補を出したり、文章を整理したりする作業では、大きな力を発揮します。
問題なのは、AIが作った文章を、そのまま自社の契約書として使ってしまうことです。
AIを「契約書を作ってくれる人」と考えるのではなく、
契約書を作るための強力なツール
として使うと、AIの活用方法は大きく変わります。
「AIが作った契約書」と「自社に合った契約書」の違い
両者の違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| AIが作った契約書 | 自社に合った契約書 |
|---|---|
| 一般的な取引を前提に作られている | 自社の具体的な取引を前提にしている |
| 条項が一通り入っている | 必要な条項が必要な形で設計されている |
| 文章として自然 | 実際の取引内容と整合している |
| 一般的なリスクに対応 | 自社の取引で問題になりそうな点を考慮している |
| 「契約書の形」になっている | 「実際に使える契約書」になっている |
もちろん、AIを使ったから自社に合わない、ということではありません。
重要なのは、AIに何を作らせるか、その前に自社の取引条件が整理されているかです。
契約書は「文章」ではなく「取引のルール」
契約書を見ると、つい文章の良し悪しに目が行きます。
しかし、本当に重要なのは文章そのものではありません。
契約書は、当事者同士が、
「何をするのか」
「何をしないのか」
「いくら支払うのか」
「いつまでに行うのか」
「問題が起きたらどうするのか」
といった取引上のルールを決めるためのものです。
だからこそ、
契約書を作る前に、契約する内容を整理すること
が重要になります。
AIに契約書を書いてもらう場合も、この部分を飛ばしてしまうと、どれだけきれいな契約書が出来上がっても、自社の取引との間にズレが生じる可能性があります。
AI時代だからこそ、「契約書を書く前」が重要になる
これからは、AIによって契約書そのものを作ることは、ますます簡単になっていくでしょう。
だからこそ、専門家の役割も変わっていきます。
「契約書の文章を書くこと」だけではなく、
その会社がどのような取引をするのかを整理し、どのようなルールを契約に入れるべきなのかを考えること。
ここに、これからの契約実務における重要な価値があります。
AIに契約書を作ってもらうこと自体は、悪いことではありません。
大切なのは、
「AIが作った契約書」=「自社に合った契約書」ではない
ということを理解しておくことです。
AIを上手に活用しながら、自社の取引内容を整理し、必要なルールを契約書に反映させる。
それが、AI時代の契約書作成の一つの考え方といえるでしょう。
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大野