なぜ会社には「株式会社」が多いのか?――株式会社という仕組みが生まれた理由
「株式会社○○」
街を歩いていても、契約書を見ても、インターネットで会社を調べても、この「株式会社」という言葉を目にする機会は少なくありません。
では、そもそも株式会社とは何なのでしょうか。
「株式を発行している会社」
たしかに間違いではありません。
しかし、それだけでは株式会社という仕組みの面白さは見えてきません。
株式会社の本質を考えるためには、
「なぜ、わざわざ株式というものを作ったのか」
というところから考えてみる必要があります。
前回の記事では、会社が法律上の「人」として扱われる「法人」という仕組みについて取り上げました。
今回は、その法人の代表的な形である株式会社について、その歴史と仕組み、そして現在も使われ続けている理由を考えてみます。
株式会社は「みんなで出資して事業をする」ためだけの仕組みではない
株式会社を簡単に説明すると、
出資した人が株式を取得し、その株式を通じて会社との関係を持つ仕組み
です。
たとえば、ある事業を始めるために1,000万円必要だとします。
一人で1,000万円を用意するのは大変です。
そこで、
Aさんが500万円
Bさんが300万円
Cさんが200万円
を出資する。
こうすれば、1,000万円を集めることができます。
しかし、ここで問題が出てきます。
「この1,000万円は誰のお金なのか?」
です。
Aさんのお金でしょうか。
Bさんのお金でしょうか。
Cさんのお金でしょうか。
そうではありません。
出資されたお金は会社の財産になります。
一方で、Aさん、Bさん、Cさんは、その出資に応じて株式を持つことになります。
つまり、
会社の財産と、株主個人の財産を分ける。
これが株式会社の重要なポイントの一つです。
「お金を出す人」と「会社を経営する人」を分けられる
株式会社の面白いところは、さらにその先にあります。
会社にお金を出した人が、必ずしも会社を経営する必要はありません。
たとえば、Aさんが1,000万円を出資したとします。
しかし、Aさんには事業を経営する能力や時間がありません。
そこで、経営が得意なBさんに会社の経営を任せる。
このように、
「お金を出す人」と「経営する人」を分ける
ことができます。
これは株式会社という仕組みの大きな特徴です。
もちろん、実際には株主と経営者が同じ人である中小企業も非常に多くあります。
しかし、制度としては、
「出資する人」
と
「会社を経営する人」
を切り離すことができます。
この仕組みがあったからこそ、株式会社は大きな事業を行うための器として発展していきました。
なぜ、そんな仕組みが必要だったのか
株式会社の発展を考えるとき、重要なのが「大きなお金を必要とする事業」です。
たとえば、遠くの国まで船を出して商品を仕入れる事業を考えてみます。
船を用意する。
乗組員を雇う。
商品を仕入れる。
長期間航海する。
途中で事故が起こる可能性もある。
商品が売れない可能性もある。
当時の感覚で考えれば、非常に大きな資金とリスクが必要です。
一人の商人がすべてを負担するのは簡単ではありません。
そこで、
「一人で全部のお金を出すのではなく、多くの人から少しずつ資金を集めることはできないか」
という発想が重要になります。
こうした考え方を背景として、近世ヨーロッパでは、現在の株式会社につながる仕組みが発展していきました。
その代表例としてよく挙げられるのが、17世紀のオランダ東インド会社です。
大規模な海外貿易には莫大な資金が必要でした。
そこで、多くの出資者から資金を集め、それを一つの事業体として運用する。
こうした仕組みは、その後の会社制度の発展に大きな影響を与えることになります。
株式の面白さは「会社そのもの」と「出資者」を分けられること
株式会社を理解するうえで重要なのが、
株主が会社そのものを所有しているわけではない
という点です。
少し意外に感じるかもしれません。
たとえば、Aさんが株式会社○○の株式を100%持っていたとしても、会社の銀行口座にある1億円がAさん個人の財産になるわけではありません。
その1億円は、あくまで会社の財産です。
Aさんが持っているのは、会社の株式です。
株式を持つことで、法律上定められた株主としての権利を持つことになります。
この、
会社の財産
と
株主が持つ株式
を分ける仕組みが、株式会社を支えています。
「株主=会社の所有者」という説明は、少し注意が必要
「株主は会社の所有者」と説明されることがあります。
これは完全に間違いというわけではありませんが、少し誤解を招く表現でもあります。
株主は、会社の土地や預金を直接所有しているわけではありません。
株主が持っているのは「株式」です。
そして、その株式には、
- 株主総会で議決権を行使する
- 配当を受ける
- 会社が解散した場合に残余財産の分配を受ける
など、法律によって定められた権利があります。
つまり、
会社の財産を直接所有することと、株式を持つことは別の話
なのです。
この区別を理解すると、株式会社の仕組みがかなり分かりやすくなります。
株式会社には「有限責任」という大きな特徴もある
株式会社が広く利用されるようになった理由として、もう一つ重要なのが有限責任です。
たとえば、Aさんが会社に100万円を出資したとします。
会社の事業が失敗し、会社に1億円の借金が残ったとしても、原則としてAさんが株主であるというだけで、その1億円を個人で返済しなければならないわけではありません。
株主としての責任は、基本的に出資した範囲に限定されます。
もちろん、経営者個人が保証人になっている場合などは別の問題になります。
しかし、
「会社の事業に投資すること」と「個人の財産をすべて事業のリスクにさらすこと」を切り離せる
という点は、株式会社の大きなメリットです。
これによって、
「事業に挑戦してみよう」
と考える人にとって、資金を集めやすくなります。
株式会社は「リスクを分散する仕組み」でもある
株式会社を別の角度から見ると、
事業のリスクを一人に集中させない仕組み
ともいえます。
会社という法人を作る。
そこに複数の人から資金を集める。
出資者は株式を持つ。
会社が事業を行う。
事業が成功すれば、会社の価値が高まる。
場合によっては株主が配当などの利益を得る。
一方、事業が失敗すれば、会社の財産が失われる可能性がある。
このように、事業の成功と失敗を、会社という法人を中心に整理することができます。
現代の企業活動において、非常に合理的な仕組みです。
では、株式会社にはデメリットはないのか
もちろん、株式会社にもデメリットがあります。
まず、会社という独立した法人を作る以上、個人事業よりも管理や手続が複雑になります。
会社の財産と個人の財産を区別しなければなりません。
会計や税務についても、会社として管理する必要があります。
また、会社を自由に動かせるとは限りません。
株主がいる会社では、株主総会など、法律で定められた機関や手続を通じて会社の重要事項を決める必要があります。
さらに、株主が増えれば増えるほど、
「誰が会社について決定するのか」
という問題も出てきます。
つまり、株式会社は、
「みんなで自由に事業をする仕組み」ではなく、「出資・所有・経営・意思決定を法律によって整理する仕組み」
なのです。
株式会社は「人間の代わり」に存在する
ここで、前回の記事の「法人」という話に戻ります。
株式会社も法人です。
つまり法律上は、一つの独立した主体として扱われます。
会社自身が財産を持ち、契約を結び、借金をし、権利を取得し、義務を負います。
一方で、会社自身が自分で動くことはできません。
そこで代表取締役などの人間が会社を代表します。
契約書に、
「株式会社○○
代表取締役 ○○○○」
と書かれているのは、そのためです。
契約の当事者は株式会社○○。
その会社を代表して署名・押印などをするのが代表取締役。
この二つは同じではありません。
ここを理解すると、契約書を見るときにも、
「この契約は誰と誰の契約なのか?」
という視点が自然に持てるようになります。
なぜ今でも株式会社が使われているのか
株式会社という仕組みが生まれた時代と、現代では社会も経済も大きく変わりました。
それでも株式会社が残っているのは、基本的な問題が今も変わっていないからでしょう。
事業にはお金が必要です。
事業にはリスクがあります。
一人では負担できないほど大きな事業もあります。
そして、事業をする人と、お金を出す人が必ずしも同じとは限りません。
だからこそ、
「会社という独立した法人を作り、そこに資金を集め、株式を通じて出資者との関係を整理する」
という仕組みには、今でも大きな意味があります。
株式会社は「大きな事業をするための発明」だった
株式会社を単に、
「株を発行している会社」
と覚えてしまうと、少し味気ない制度に見えます。
しかし、その背景には、
「一人ではできない大きな事業を、どうやって実現するのか」
という問題があります。
その答えの一つが株式会社でした。
多くの人から資金を集める。
会社と個人を分ける。
出資と経営を分ける。
事業のリスクを一定の範囲で限定する。
そして、会社そのものを一つの法人として存続させる。
こうして考えると、株式会社とは単なる「会社の種類」ではありません。
人間だけではできない規模の活動を可能にするために、人間が作り出した法律上の仕組み
と見ることもできます。
そして、株式会社は「契約」によって動いている
株式会社という仕組みをさらに身近なところから見ると、そこには大量の契約があります。
会社と取引先。
会社と従業員。
会社と金融機関。
会社と株主。
会社と顧客。
会社と業務委託先。
会社と賃貸人。
さまざまな関係が契約によって結ばれています。
株式会社という「法人」が一つの主体として存在し、その法人がさまざまな契約を結ぶことで、事業が動いていくのです。
だからこそ契約書では、
「誰が契約するのか」
「誰が権利を持つのか」
「誰が義務を負うのか」
を明確にすることが重要になります。
「株式会社」という名前の裏側にあるもの
私たちは「株式会社○○」という名前を見れば、それを一つの会社として認識します。
しかし、その名前の裏側には、
- 法人格
- 株式
- 株主
- 経営者
- 会社財産
- 出資
- 有限責任
- 契約
- 意思決定
といった、さまざまな法律上の仕組みがあります。
そして、それらを一つの仕組みとしてまとめたものが株式会社です。
株式会社は、人間が集まって作ったものです。
それなのに、法律上は人間とは別の「人」として扱われる。
その会社に人がお金を出し、その会社が財産を持ち、その会社が契約を結び、その会社が事業を行う。
そして、会社を構成する人が入れ替わっても、会社は存続していく。
そう考えると、株式会社とは、
「人間の活動を、法律によって一つの独立した主体にまとめるための仕組み」
ともいえるでしょう。
普段何気なく使っている「株式会社」という言葉。
その中には、何百年にもわたって人間が考えてきた、
「お金をどう集めるか」
「リスクをどう分けるか」
「誰が経営するのか」
「会社をどう存続させるのか」
「会社と個人をどう区別するのか」
という問題への答えが詰まっています。
そして今日も、私たちはその仕組みの上で、会社を作り、事業を行い、契約を結んでいます。
「株式会社」というたった一つの言葉を少し掘り下げてみるだけでも、現代のビジネスがどのような法律上の仕組みによって支えられているのかが見えてくるのではないでしょうか。
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大野