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なぜ会社は「人」として扱われるのか?――法人という不思議な仕組みが生まれた理由

「会社が契約をする」

私たちは普段、何気なくこの言葉を使っています。

「会社が銀行からお金を借りる」
「会社が土地を買う」
「会社が従業員を雇う」
「会社が契約書に署名する」

しかし、よく考えてみると少し不思議です。

会社には、手も足もありません。
会社そのものがペンを持って契約書に署名することもできません。

それなのに、法律の世界では会社は契約を結び、財産を持ち、借金をし、裁判を起こしたり、逆に訴えられたりします。

なぜでしょうか。

その答えが「法人」です。

目次

法人とは「法律によって人として扱われるもの」

法律上の「人」という言葉には、私たちが普段イメージする「人間」だけではありません。

法律の世界では、大きく分けて「自然人」と「法人」という考え方があります。

自然人とは、私たち一人ひとりの人間です。

一方、法人とは、簡単にいえば、法律によって権利や義務の主体として認められた存在です。

つまり、法人は「人間ではないけれど、法律上は一定の範囲で人と同じように扱う」という仕組みです。

会社は、その代表的な存在です。

会社そのものが人間になるわけではありません。

「この団体を、財産を持ったり、契約を結んだりできる一つの独立した主体として扱おう」

と法律が認めているのです。

では、なぜこんな少し変わった仕組みが必要になったのでしょうか。

法人という考え方は、突然生まれたわけではない

「法人」という言葉を聞くと、株式会社など現在の会社制度と一緒に生まれたように感じるかもしれません。

しかし、その発想の源流はもっと古くまでさかのぼります。

古代ローマでは、個人とは別に、一定の団体を法律上のまとまりとして扱う考え方が存在していました。

さらに中世ヨーロッパでは、教会、大学、都市、ギルドなど、個人の集合を超えて長く存続する組織が発達していきます。

ここで重要になったのが、

「構成員が入れ替わっても、その組織は同じものとして存続する」

という考え方です。

たとえば、ある大学の教授が全員入れ替わったとしても、その大学そのものが消滅するわけではありません。

ある都市の市長が交代しても、都市そのものは存続します。

では、その組織が土地を持っていたら、その土地は誰のものなのでしょうか。

誰か一人の個人の所有物なのでしょうか。

それとも、組織そのものが所有しているのでしょうか。

こうした問題を法律上整理するために、個人とは別の「団体そのもの」を権利義務の主体として扱うという発想が発達していきました。

そして近代になると、この考え方が会社制度にも取り入れられ、現在の法人制度へと発展していきます。

なぜ「会社」という別の人間を作る必要があったのか

法人制度の最大のポイントは、組織と、その構成員を切り離せることです。

たとえば、Aさんが個人で商売をしているとします。

Aさんが商品を仕入れれば、契約の当事者はAさんです。

売上があればAさんの財産になります。

借金をすれば、原則としてAさんの債務です。

ところが、事業が大きくなると、これでは不便になってきます。

複数の人がお金を出し合って事業をする場合、誰の財産なのかが分かりにくくなります。

事業のために購入した土地は誰のものなのか。

事業で得たお金は誰のものなのか。

取引先との契約は誰が当事者なのか。

そして、出資者が亡くなったり、事業から離れたりしたら、事業そのものも終わってしまうのでしょうか。

そこで、

「事業を行うための独立した主体を作ってしまおう」

という発想が重要になります。

それが会社です。

「会社」という別人格を作るメリット

法人制度には、いくつものメリットがあります。

1.会社と個人の財産を分けられる

法人を作ると、会社の財産と、株主や経営者個人の財産を別々に考えることができます。

会社のお金は会社のお金。

個人のお金は個人のお金。

この区別ができることは、事業を継続していくうえで非常に重要です。

2.人が入れ替わっても事業を続けられる

会社は、社長が交代しても、株主が変わっても、会社として存続できます。

これは法人が「特定の人間そのもの」ではないからです。

創業者が会社を作り、その後、別の人が経営を引き継いでも、会社は同じ法人として契約や財産を引き継いでいくことができます。

つまり、法人には人間よりも長く生きられる可能性があります。

3.契約の主体を一つにまとめられる

会社が法人であることによって、取引先との契約も整理しやすくなります。

「社長個人と契約する」のではなく、

「株式会社○○と契約する」

という形にできます。

これは現代のビジネスにおいて非常に大きな意味を持っています。

会社は「契約の器」と考えることもできる

法人について考えるとき、私は「会社は一つの器」と考えると分かりやすいと思います。

会社という器の中に、

  • 財産
  • 契約
  • 債権
  • 債務
  • 従業員との関係
  • 取引先との関係

などが集まっています。

そして、その器を動かすのが人間です。

社長が契約書に署名しているように見えても、契約書上の当事者が会社であれば、契約しているのは社長個人ではなく会社です。

社長は会社を代表して意思表示をしているにすぎません。

ここが法人という制度の面白いところです。

人間が会社を動かしているのに、法律上は会社自身が契約の主体になる。

この仕組みによって、現代の複雑な経済活動が成り立っています。

では、法人にはデメリットはないのか

もちろん、法人制度は万能ではありません。

むしろ「会社という別の人格を作る」からこそ、複雑になる部分もあります。

代表的なのが、会社と経営者個人をきちんと区別しなければならないという問題です。

会社のお金と社長個人のお金を自由に混ぜてしまえば、法人としての独立性が失われかねません。

また、会社を設立すると、登記、会計、税務、各種届出など、個人事業よりも管理すべき事項が増えることがあります。

さらに、会社だからといって、経営者があらゆる責任から解放されるわけでもありません。

「法人だから責任を負わなくていい」

という単純な話ではありません。

会社自身が負う責任と、経営者など個人が負う責任を、法律に従って区別して考える必要があります。

それでも、なぜ私たちは今も法人を使っているのか

ここまで考えると、法人という制度が何百年、何千年という時間の中で発展してきた理由が見えてきます。

それは、人間だけを単位にして経済活動を考えるよりも、「組織そのもの」を一つの主体として扱ったほうが便利だからです。

事業は、人が入れ替わっても続きます。

契約は、何年も続くことがあります。

財産は、何世代にもわたって利用されます。

そして、企業活動は一人ではなく、多くの人によって行われます。

そうした活動を、

「誰と誰が関係しているのか」

だけで整理するのではなく、

「この会社と、この会社が契約している」

と整理できる。

法人制度は、複雑になった社会を整理するための非常に強力な仕組みなのです。

「会社は人」という言葉には、実は深い意味がある

「会社は人だ」と言うと、少し奇妙に聞こえるかもしれません。

しかし正確には、

会社は人間ではないけれど、法律上の権利や義務の主体として「人」と同じように扱われる存在

ということです。

だから会社は、

契約を結ぶことができる。

財産を持つことができる。

借金をすることができる。

訴えることができる。

訴えられることもある。

そして、場合によっては、人間よりも長く存在し続けることができます。

考えてみれば、かなり不思議な存在です。

私たちは「会社」というものを当たり前のように使っていますが、その正体は、法律によって作られた一つの「人格」なのです。

契約書を作るときにも、「誰が契約するのか」は重要になる

この法人という考え方は、契約書にも直接関係します。

契約書では、

「誰が契約当事者なのか」

を明確にしなければなりません。

個人なのか。

法人なのか。

法人であれば、どの法人なのか。

そして、その法人を代表して誰が契約するのか。

たとえば、

「株式会社○○ 代表取締役○○」

と書かれている場合、契約をする主体は代表取締役個人ではなく、原則として株式会社○○です。

代表取締役は、その会社を代表して契約を締結しています。

この違いを意識すると、契約書の見え方も少し変わってきます。

契約書は単に「約束を書いた紙」ではありません。

そこには、

誰が権利を持ち、誰が義務を負うのか

という、法律上の関係が書かれています。

そして、その背景には「人」や「法人」といった法律上の仕組みがあります。

「法人」という仕組みを知ると、会社の見方が変わる

普段は当たり前すぎて意識しない「会社」。

しかし、少し立ち止まって考えてみると、会社はとても不思議な存在です。

人間が集まって作ったものなのに、人間とは別の存在として扱われる。

人間が動かしているのに、会社自身が契約を結ぶ。

人間が入れ替わっても、会社は同じ会社として残る。

そして、その「法律上の人」としての地位によって、現代の経済活動の多くが成り立っています。

法人制度は、単なる会社設立のための手続ではありません。

それは、

「人間だけでは扱いにくい、継続的で大規模な活動を、法律上どのように一つの主体として扱うか」

という問題に対する、長い歴史の中で作られてきた答えなのです。

そして、契約書を考えるときも、その出発点は同じです。

「何を約束するのか」だけではなく、

「誰と誰が、その約束をするのか」

を考える。

契約を理解するということは、実は「人」と「組織」と「法律」の関係を理解することでもあります。

会社という身近な存在を少し違った角度から見てみると、私たちが日々行っている契約や取引が、実はこうした法律上の仕組みの上に成り立っていることに気づくのではないでしょうか。

大野

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