刑法の学習や実務の場で必ず登場する概念が「既遂」と「未遂」です。犯罪は「企図→実行→結果」という流れをたどりますが、その結果が実現したかどうかで既遂か未遂かが分かれます。本記事では、定義・成立時期・量刑の違い・量刑が異なる理由について、具体例を交えながらわかりやすく整理します。
目次
1. 既遂と未遂の定義
- 既遂(きすい)
法が予定する犯罪結果がすべて実現した段階。
例:殺人罪であれば、人が死亡した時点で「既遂」となる。 - 未遂(みすい)
犯罪の実行に着手したが、結果が発生しなかった段階。
例:人を殺そうと刃物で刺したが、被害者が一命を取り留めた場合は「殺人未遂」となる。
2. 成立する時期
- 既遂の成立時期
犯罪の結果がすべて発生した時点。
(例)強盗罪なら、暴行や脅迫を用いて財物を奪取した時点。 - 未遂の成立時期
犯罪の実行行為に着手した時点。
(例)殺人罪の場合、相手を狙って刃物を振り下ろした瞬間に「実行の着手」があり、その後に被害者が生き残れば「未遂」となる。
3. 量刑の違い
- 既遂犯
刑法が定める通常の法定刑が適用される。
例:殺人罪(刑法199条)は「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」。 - 未遂犯
刑法43条により「その刑を減軽することができる」。
例:殺人未遂罪は、既遂よりも軽い刑が科される(ただし「減軽」は必須ではなく、裁判所の裁量による)。
4. なぜ量刑が異なるのか
- 結果の重大性の違い
未遂では被害が未発生または軽度であることが多い。既遂は実際に法益が侵害されているため、刑事責任が重くなる。 - 行為者の危険性評価
既遂に至った場合、社会に対する危険性がより大きいと評価される。 - 予防・応報のバランス
刑罰は行為者の責任と結果の大きさの双方を考慮するため、結果が実現しなかった未遂は軽く扱われる。
5. 具体例
- 殺人罪の場合
- 被害者死亡 → 殺人既遂(刑法199条)
- 被害者が生存 → 殺人未遂(刑法199条+43条で減軽可能) - 窃盗罪の場合
- 財布を奪って逃げた → 窃盗既遂
- 財布を取ろうとしたが、直前で警察に取り押さえられた → 窃盗未遂
まとめ
- 既遂 … 犯罪結果が実現した場合
- 未遂 … 実行に着手したが結果が生じなかった場合
- 成立時期 … 既遂は結果発生時、未遂は実行行為開始時
- 量刑 … 未遂は既遂より軽くなる可能性がある(刑法43条)
- 理由 … 被害結果の有無、社会的危険性、応報と予防の調和
刑法の基本である既遂と未遂の違いを理解することは、法学習者だけでなく実務に携わる人にとっても重要です。特に判例や実務判断では「どの時点で既遂に至ったのか」「未遂と評価すべきか」が大きな争点となります。
大野