裁判所は検察官の求刑より重い刑を言い渡せるのか?
刑事裁判のニュースを見ると、「検察官は懲役○年を求刑しました」「裁判所は懲役○年の判決を言い渡しました」と報道されます。
そのため、「裁判所は検察官の求刑の範囲内でしか判決を出せないのではないか」と考える方もいるかもしれません。
しかし、結論から言えば、裁判所は検察官の求刑より重い刑を言い渡すことができます。
もっとも、実際にはそのようなケースは多くありません。
今回は、裁判所が求刑を上回る判決を出せる根拠と、それにもかかわらずあまり見られない理由について解説します。
求刑とは何か
まず、「求刑」とは何でしょうか。
求刑とは、検察官が裁判所に対し、
「被告人には懲役○年が相当である」
という意見を述べることです。
あくまでも検察官の意見であり、裁判所を法的に拘束するものではありません。
※「論告求刑(ろんこくきゅうけい)」
と呼ばれます。
刑事裁判の終盤で、検察官が行う
1.論告(被告人が有罪であることや事件の評価を述べること)
2.求刑(どの程度の刑罰が相当化を述べること)
を合わせて「論告求刑」と言います
民事裁判における「請求額」とは性質が異なります。
例えば、
- 検察官が懲役10年を求刑
- 裁判所が懲役7年を判決
ということは日常的にあります。
逆に、
- 検察官が懲役10年を求刑
- 裁判所が懲役12年を判決
ということも、法律上は可能です。
裁判所が求刑を超える判決を出せる根拠
日本の刑事裁判では、量刑を最終的に決定する権限は裁判所にあります。
検察官は公訴を提起し、有罪を主張しますが、
- 有罪か無罪か
- どの刑が相当か
を判断するのは裁判所です。
仮に検察官の求刑額が絶対的な上限になるのであれば、量刑決定権の一部が実質的に検察官へ移ってしまいます。
しかし、日本の刑事司法制度はそのような構造にはなっていません。
裁判所は、
- 法律上の刑罰の範囲
- 犯罪の内容
- 被害結果
- 前科前歴
- 更生可能性
などを総合的に判断して刑を決定します。
したがって、法律上の上限を超えない限り、求刑を上回る刑を言い渡すことは可能です。
実際に求刑超え判決はあるのか
あります。
もっとも、頻繁に見られるものではありません。
例えば、
- 検察官が見落としていた事情が判決段階で重視された
- 裁判所が犯行の悪質性をより重く評価した
- 共犯関係や常習性について裁判所が異なる評価をした
といった場合に、求刑を超える判決が言い渡されることがあります。
ただし、統計的には求刑以下の判決の方が圧倒的に多いといわれています。
できるのになぜあまりしないのか
ここが興味深い点です。
法律上可能であるにもかかわらず、裁判所が求刑を大きく超える判決を出すことは稀です。
その理由として、いくつかの事情が考えられます。
① 求刑自体が量刑相場を踏まえて行われている
検察官は思いつきで求刑しているわけではありません。
過去の判例や量刑傾向を踏まえて求刑を行います。
そのため、求刑額は裁判所の量刑感覚から大きく外れていないことが通常です。
結果として、
- 求刑8年 → 判決6年
- 求刑10年 → 判決8年
などの範囲に収まることが多くなります。
② 被告人の防御権への配慮
被告人は検察官の求刑を前提として最終弁論などを行います。
もし裁判所が予告なく大幅な求刑超え判決を頻発させれば、
「検察官ですら求めていなかった重い刑が突然言い渡された」
という問題が生じます。
そのため、手続の公平性や予測可能性の観点からも、求刑を大きく超える量刑には慎重になる傾向があります。
③ 控訴審で問題になる可能性
著しく重い判決が出された場合、
- 量刑不当
- 審理不尽
などを理由として控訴される可能性があります。
もちろん、求刑超え判決だから直ちに違法というわけではありません。
しかし、裁判所としても十分な理由付けが必要になるため、慎重な判断が求められます。
④ 裁判所と検察官の量刑感覚が近い
刑事裁判では、
- 過去の裁判例
- 量刑データベース
- 類似事件の傾向
などが参照されます。
そのため、検察官と裁判所の量刑感覚が極端に食い違うことはそれほど多くありません。
結果として、求刑を大幅に超える必要性が生じにくいのです。
裁判員裁判ではどうか
裁判員裁判でも基本的な考え方は同じです。
裁判員と裁判官が評議を行い、量刑を決定します。
したがって、
「検察官の求刑を超える判決は絶対にできない」
というルールはありません。
もっとも、裁判員裁判においても求刑は重要な参考資料であり、実務上は大きくかけ離れた判断がなされることは多くありません。
まとめ
刑事裁判における求刑は、検察官の意見にすぎず、裁判所を法的に拘束するものではありません。
そのため、
- 裁判所は求刑より軽い刑を言い渡せる
- 裁判所は求刑より重い刑を言い渡すこともできる
というのが原則です。
もっとも、実際には検察官も過去の量刑傾向を踏まえて求刑しており、裁判所も被告人の防御権や予測可能性に配慮するため、求刑を大幅に超える判決は例外的です。
ニュースで「求刑○年に対して判決○年」という報道を見ると、求刑があたかも上限のように感じられることがあります。しかし、法的にはそうではなく、最終的な量刑決定権はあくまで裁判所にあるという点は、刑事司法制度を理解するうえで重要なポイントといえるでしょう。
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大野