民法において他人の物を売ることを想定した規定があります(他人物売買)。
民法第561条です。
(他人の権利の売買における売主の義務)
「他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」
これに似たものとして同じ物を二重に売買する二重譲渡がありますが、全くの別物です。
例えば、甲さんがA土地を持っていたとします。
A土地を乙さんに売る契約をしました。
にもかかわらず、甲さんは丙さんにもA土地を売る契約をしました。
他人物売買なのでしょうか?二重譲渡なのでしょうか?
①他人物売買
甲さんがA土地を乙さんに売却し、登記も乙さんに移転させ、その後に丙さんに売却した場合には他人物売買となります。
なぜなら、乙さんが登記を備えた時点でA土地の完全な所有者となり、甲さんは所有者ではなくなっているため、他人の物を勝手に売っているといえるからです。
②二重譲渡
甲さんがA土地を乙さんに売却したが、登記はまだ甲さんに残っている場合において、丙さんにも売却した場合には二重譲渡となります。
なぜなら、乙さんは民法第176条により所有者と言えますが、民法第177条の第三者には対抗できないという不完全な所有者となっており、乙さんが登記を備えるまでは甲さんも不完全な所有者としてこれを売却できると考えるためです。
細かな違いですが、①②の違いによってそのあとの流れが変わります。
他人物売買なら、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負うことになります。
二重譲渡なら、登記を先に具備した者が完全な所有者となります。
大野