「言った・言わない」が起こるのは、なぜ?
「そんな話は聞いていない」
「いや、確かに伝えました」
仕事をしていると、こんな「言った・言わない」の場面に出会うことがあります。
取引先との話し合いだけではありません。
社内での約束、知人とのお金の貸し借り、業務の依頼、納期の相談など、さまざまな場面で起こります。
そして、この問題がやっかいなのは、どちらか一方が嘘をついているとは限らないことです。
では、なぜ「言った・言わない」は起こるのでしょうか。
「言った・言わない」は、嘘から生まれるとは限らない
「言った・言わない」という言葉を聞くと、
「どちらかが嘘をついているのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、実際にはそうとは限りません。
同じ会話をしていても、人によって受け取り方が違うからです。
たとえば、
「来月くらいには納品できます」
という話をしたとします。
伝えた側は、
「だいたい来月という意味で、多少前後することも含めて話した」
つもりだったかもしれません。
一方、聞いた側は、
「来月末までには納品される」
と理解していたかもしれません。
この場合、どちらも自分の記憶では「間違ったことを言っていない」と思っている可能性があります。
つまり、「言った・言わない」の問題は、単純な記憶違いだけではありません。
そもそも、最初の段階で話の内容が十分に具体化されていなかった。
これも大きな原因になります。
人は、会話をそのまま記録しているわけではない
もう一つの原因は、記憶です。
人は、会話の一言一句を録音機のように覚えているわけではありません。
そのときの状況や、自分が重要だと思った部分を中心に記憶しています。
たとえば、
「今回は通常より少し安くします。その代わり、支払いは納品時ではなく、今月末までにお願いします」
という話をしたとします。
後になって、
「安くしてもらえるという話だった」
という部分だけが強く残っている人もいれば、
「今月末までに支払うという話だった」
という部分を強く覚えている人もいます。
時間が経てば、細かな部分はさらに曖昧になります。
その結果、
「そんな条件でしたっけ?」
という話が起こります。
「そのつもりだった」が問題を大きくする
「言った・言わない」が起こるとき、もう一つ注意したいのが「つもり」です。
たとえば、
「今回は前回と同じ条件でお願いします」
という依頼があったとします。
依頼した側は、
「前回と同じ」と言えば、すべて同じだと思っています。
しかし、依頼を受けた側からすると、
「金額は同じという意味なのか」
「納期も同じなのか」
「作業内容も同じなのか」
「支払条件も同じなのか」
分からないかもしれません。
つまり、
「お互いに分かっているつもり」になっている部分ほど、後から問題になりやすい。
ということです。
「常識だから書かなくてもいい」が危ない理由
取引を何度もしている相手であればあるほど、
「そこまで書かなくても分かるでしょう」
となることがあります。
確かに、毎回細かく説明するのは面倒です。
しかし、取引が順調なときには問題にならなかったことが、少し状況が変わるだけで問題になることがあります。
担当者が変わった。
会社の方針が変わった。
金額が大きくなった。
納期が遅れた。
途中で仕様が変わった。
こうした変化が起きると、
「以前はこういう話だったはず」
という記憶が、それぞれの立場から出てきます。
そして、そこで初めて「何を約束していたのか」が問題になります。
「言った・言わない」を防ぐのは、記憶力ではない
では、どうすればいいのでしょうか。
「相手にしっかり覚えておいてもらう」
「自分も忘れないようにする」
という方法もあります。
しかし、記憶だけに頼るには限界があります。
そこで重要になるのが、話した内容を残しておくことです。
メールでも構いません。
議事録でも構いません。
チャットの記録でも構いません。
もちろん、内容によっては契約書や覚書などの書面にする方法もあります。
たとえば打ち合わせの後に、
「本日の打ち合わせ内容について、以下のとおり確認しました」
として、
・何をするのか
・いつまでにするのか
・いくらなのか
・誰がするのか
・どのような条件なのか
を整理しておくだけでも、後から確認できる情報が残ります。
大切なのは、「覚えておいてください」ではなく、「後から確認できる状態にしておく」ことです。
契約書は「言った・言わない」をなくすためだけのものではない
ここで契約書が関係してきます。
契約書というと、
「トラブルになったときのための証拠」
というイメージがあるかもしれません。
もちろん、それも契約書の重要な役割の一つです。
しかし、それだけではありません。
契約書を作る過程で、
「結局、何を約束するのか」
「いつまでなのか」
「いくらなのか」
「どこまでが相手の仕事なのか」
「予定どおり進まなかった場合はどうするのか」
といったことを、一つずつ確認することができます。
つまり契約書には、
「後から確認するため」だけではなく、「最初に認識をそろえるため」
という役割もあります。
書面にすると、曖昧な部分が見えてくる
口頭では、
「まあ、このあたりは分かっているでしょう」
で進んでしまう話もあります。
ところが、それを文章にしようとすると、
「これはどういう意味だろう?」
「誰がすることになっている?」
「期限はいつ?」
「この場合はどうする?」
と、曖昧な部分が見えてきます。
これは契約書を作るうえで、とても重要なところです。
契約書は、単に話し合った内容を文章にするだけではありません。
話し合いの中に残っている曖昧な部分を見つけ、具体的な条件にしていく作業でもあります。
「言った・言わない」になってからでは遅いことがある
契約書や確認書を作るのは、トラブルが起きてからではありません。
むしろ、問題が起きていないときに作っておくことに意味があります。
問題が起きた後になると、
「本当はこういう約束だった」
「いや、そんな約束はしていない」
という双方の主張が出てきます。
そうなってから最初の約束を整理するのは、簡単ではありません。
だからこそ、
「今は問題がないから大丈夫」なときに、約束の内容を整理しておく。
それが「言った・言わない」を減らす一つの方法です。
約束は、覚えていることより「確認できること」が大切
「言った・言わない」は、人間関係が悪いから起こるとは限りません。
むしろ、普段はうまくいっている関係だからこそ、
「わざわざ書かなくても分かる」
「これくらいなら大丈夫」
と考えてしまうことがあります。
しかし、仕事や取引では、ちょっとした認識の違いが後から大きな問題になることがあります。
だからこそ、
約束したことを、記憶だけに任せない。
話し合った内容を整理し、必要なものは書面に残す。
契約書は、そのための一つの方法です。
「何を約束したのか」が後から確認できる状態にしておくことは、相手のためだけではありません。
自分自身を守ることにもつながります。
関連するサポート
感情や立場の違いが関わる問題は、早めに整理しておくことで 将来のトラブルを防げる場合があります。
大野