なぜ行政処分には「取消し」と「無効確認」があるのか? 出訴期間・重大かつ明白な瑕疵・処分の存否を解説
行政庁が行った処分に問題がある場合、裁判でその処分を争う方法として、行政事件訴訟法は「取消訴訟」や「無効等確認の訴え」などを定めています。
しかし、ここで疑問が生じます。
違法な行政処分を取り消してもらいたいのであれば、取消訴訟を起こせばよいのではないでしょうか。
なぜ、わざわざ無効等確認の訴えという別の制度が必要なのでしょうか。
また、取消訴訟には出訴期間がある一方、無効等確認の訴えには同じ出訴期間の制限がありません。
それならば、取消訴訟の期間が過ぎた後は、無効等確認の訴えを使えばよいのでしょうか。
さらに、法律上は「処分の存否」の確認も対象とされています。
処分が存在するかどうかは、行政庁に確認すれば分かることではないのでしょうか。
今回は、こうした疑問を出発点として、取消訴訟と無効等確認の訴えの違い、行政処分が無効となるための要件、出訴期間との関係などを整理していきます。
1.まず、取消訴訟と無効等確認の訴えは何が違うのか
行政事件訴訟法第3条第2項は、処分の取消しの訴えについて、行政庁の処分などの取消しを求める訴訟と定めています。
これに対して、同条第4項は、無効等確認の訴えについて、次のように定めています。
この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
両者の違いを理解するためには、まず、裁判で何を求めているのかを区別する必要があります。
取消訴訟は、処分を取り消してもらうための訴訟
取消訴訟では、行政庁が行った処分について、裁判所に取消しを求めます。
例えば、行政庁から営業許可を取り消された事業者が、その処分は違法であるとして、裁判所に取消しを求める場合です。
取消訴訟では、処分が違法であることなどを主張し、裁判所が取消しを認めれば、その処分は判決によって取り消されます。
ここで重要なのは、違法な処分であっても、当然に効力がなくなるとは限らないということです。
行政処分には、違法であっても、権限のある機関によって取り消されるまでは効力を有するものとして扱われるという「公定力」の考え方があります。
そのため、処分に違法な点がある場合でも、原則として、取消訴訟などの適切な手段によって争う必要があります。
無効等確認の訴えは、処分の存在や効力について確認を求める訴訟
一方、無効等確認の訴えでは、処分が存在するのか、あるいは存在する処分に効力があるのかについて、裁判所に確認を求めます。
例えば、行政庁から課税処分を受けたものの、その処分には重大な問題があり、法律上当然に無効であると主張する場合です。
この場合、求めているのは、単に違法な処分を取り消してもらうことではありません。その処分は初めから有効なものとして扱われるべきではない、という立場から、無効であることの確認を求めます。
ただし、無効等確認の訴えを起こせば、主張した処分が無効になるわけではありません。実際に無効と認められるかどうかは、処分の内容や瑕疵の程度などを踏まえて判断されます。
2.違法な処分なら、すべて無効になるのか
ここが、取消訴訟と無効等確認の訴えを理解するうえで重要なポイントです。
行政処分に違法な点があったとしても、それだけで当然に無効となるわけではありません。
行政処分の違法性と、処分が無効であることは、区別して考える必要があります。
例えば、行政庁がある事実を誤って認定し、その事実を前提として処分を行ったとします。
その認定に誤りがあれば、処分が違法となる可能性があります。しかし、その誤りがあるからといって、直ちに処分が法律上当然に無効となるとは限りません。
一般に、行政処分が当然無効となるためには、判例上、原則として「重大かつ明白な瑕疵」が必要であると考えられています。
「瑕疵」とは、法律上の欠陥や問題点のことです。
- 重大性:処分の欠陥が、処分を無効とするほど重大であること
- 明白性:その欠陥が、処分の成立当初から、外形上・客観的に明らかであること
ただし、これはあらゆる行政処分について機械的に当てはまる絶対的な基準ではありません。判例上、例外的な事情のもとで、明白性を必須としない判断がされたこともあります。
つまり、処分に違法な点があることと、無効と評価されるほど重大な問題があることは、同じではないのです。
3.なぜ、無効と認められるためのハードルが高いのか
それでは、なぜ行政処分の無効が簡単には認められないのでしょうか。
理由の一つは、行政処分の効力をいつまでも不安定な状態にしておくことが、社会全体に影響を及ぼすからです。
行政処分は、処分を受けた本人だけでなく、第三者の権利関係や、その後の行政手続にも影響することがあります。
例えば、ある事業者に営業許可が与えられ、その許可を前提として設備投資や取引が行われたとします。
何年も経過した後に、その許可が簡単に無効とされてしまえば、事業者だけでなく、取引先などにも影響が及ぶ可能性があります。
もちろん、社会への影響を理由に、重大な違法を放置してよいわけではありません。
しかし、行政処分の効力をいつまでも不確定なままにしておくことも適切ではありません。
そこで、通常の違法な処分については取消訴訟などによって争う仕組みとし、重大な瑕疵などがある処分については、無効を主張する余地を認めるという考え方が採られています。
ここで注意したいのは、無効確認の方が取消しより簡単に認められるということではない点です。
無効確認では、単に違法であると主張するだけでは足りず、無効と評価されるための要件を満たす必要があります。
4.取消訴訟には出訴期間があるのに、無効等確認の訴えにはないのはなぜか
取消訴訟には、行政事件訴訟法第14条による出訴期間の制限があります。
原則として、処分があったことを知った日から6か月を経過すると、取消訴訟を提起できなくなります。また、処分の日から1年を経過した場合にも、原則として提起できません。いずれも正当な理由がある場合などには例外があります。
このような期間制限が設けられているのは、行政処分をめぐる法律関係を、いつまでも不安定な状態にしないためです。
では、期間が過ぎた後に、重大な問題がある処分についても争えなくなってしまうのでしょうか。
そのような場合に備えて、無効等確認の訴えがあります。
無効である処分は、法律上、初めから有効な処分としての効力を持たないと考えられます。そのため、重大な瑕疵などによって処分が無効である場合にまで、取消訴訟の出訴期間が過ぎたことだけを理由に、無効を争う余地を一切なくすことは適切でない場合があります。
このような考え方が、無効等確認の訴えという制度の重要な役割の一つです。
ただし、ここから「取消訴訟の期間が過ぎたら、無効等確認の訴えを起こせばよい」と考えるのは誤りです。
出訴期間が過ぎたことと、処分が無効であることは別の問題です。
処分に単なる違法があるだけで、無効と認められるほどの瑕疵がない場合には、無効等確認の訴えを提起しても、目的を達成できない可能性があります。
5.重大な瑕疵があるなら、なぜ出訴期間内に争わなかったのか
ここで、もう一つ疑問が生じます。
重大な瑕疵があるほどの処分であれば、本人もその問題に気づき、出訴期間内に争うのではないでしょうか。
確かに、処分を受けた本人が問題に気づいている場合には、期間内に取消訴訟を提起することが考えられます。
しかし、瑕疵が重大であることと、本人がその瑕疵に気づく時期は、別の問題です。
例えば、税務署から課税処分を受けた人が、自分に課税される理由を十分に理解できず、当初は単なる計算ミスだと思っていたとします。その後、資料を調べたり、専門家に相談したりする中で、課税の前提そのものに重大な問題があったと分かる場合も考えられます。
ただし、本人が後になって問題に気づいたからといって、直ちに処分が無効になるわけではありません。
本人がいつ気づいたかという事情と、処分に無効と評価されるほどの瑕疵があるかどうかは、分けて考える必要があります。
また、重大な瑕疵がある処分であっても、瑕疵が明白であるとは限りません。事実関係や法律関係が複雑で、処分の問題点がすぐには分からない場合もあり得ます。
この点については、最高裁判所昭和48年4月26日判決(課税処分無効事件)が重要です。
同判決は、課税要件の根幹に関わる重大な誤りがある場合について、一定の例外的事情のもとでは、瑕疵の明白性を欠くことだけで無効を否定すべきではないとする考え方を示しました。
もっとも、同判決は、本人が後から気づいたというだけで課税処分が無効になると判断したものではありません。課税処分の性質、第三者保護の必要性、処分による不利益を本人に甘受させることの不当性などを踏まえた判断です。
したがって、「重大な瑕疵があれば、出訴期間を過ぎても必ず無効にできる」という理解は正確ではありません。
6.それなら、出訴期間内でも無効等確認の訴えを使うことはあるのか
あります。
無効等確認の訴えは、出訴期間が過ぎた場合にだけ利用できる制度ではありません。
処分が無効であると考えられる場合には、取消訴訟の出訴期間内であっても、無効等確認の訴えが問題となることがあります。
ただし、処分を取り消してもらうことが目的であれば、通常は取消訴訟が基本的な選択肢になります。
例えば、営業許可の取消処分を受けた事業者が、その処分は違法だから取り消してほしいと考えているのであれば、取消訴訟によって争うことが考えられます。
一方、処分には重大な瑕疵があり、法律上当然に無効であることを確認してほしいという場合には、無効等確認の訴えが問題となります。
もっとも、両方の訴えを自由に選べるわけではありません。無効等確認の訴えには、後述する行政事件訴訟法第36条の要件があり、無効であるとの主張が認められるかどうかも別途判断されます。
なお、取消訴訟と無効確認訴訟を同時に提起すれば常に問題がない、というわけでもありません。両訴訟の関係や訴えの利益について、判例上の制約があります。
7.「処分の存否」とは何か。処分がなければ義務付けの訴えではないのか
ここまでの説明で、無効等確認の訴えが処分の効力を争うための制度であることは分かりました。
しかし、行政事件訴訟法第3条第4項は、「効力の有無」だけでなく、「存否」も確認の対象としています。
「存否」とは、存在するかどうかという意味です。
では、行政処分が存在するかどうかは、行政庁に確認すれば済む話ではないのでしょうか。
行政庁が処分をしたかどうかについて、当事者間で争いがない場合には、そもそも裁判で確認する必要がないこともあります。
しかし、問題になるのは、単に行政庁が「処分をした」「していない」と説明する場面だけではありません。
例えば、行政庁が処分を行ったと主張しているものの、本人はそのような処分がされたことを否定している場合や、処分の成立・効力に関わる事実について争いがある場合が考えられます。
このような場合、当事者間の主張が食い違っているだけでは、法的な争いは解決しません。裁判所が、処分が法的に存在するかどうかを判断する必要が生じることがあります。
ここで重要なのは、処分の存否を確認することと、行政庁に処分をするよう求めることは別だという点です。
行政庁が本来すべき処分をしていないため、その処分をするよう裁判所に求めるのであれば、義務付けの訴えが問題となります。
一方、処分が法的に存在するのかどうか自体を争っているのであれば、無効等確認の訴えが問題となります。
整理すると、次のようになります。
- 行政庁がすべき処分をしていないため、処分をするよう求める:義務付けの訴え
- 行政庁が行ったとされる処分が、法的に存在するかどうかを確認する:無効等確認の訴え
- 現に存在する処分を違法として取り消してもらう:取消訴訟
- 現に存在する処分について、法律上の効力がないことの確認を求める:無効等確認の訴え
もっとも、どの訴訟を選ぶべきかは、実際の紛争の内容や求める救済によって異なります。
また、「処分の存否」という言葉が条文にあるからといって、あらゆる事実上の争いを無効等確認の訴えで解決できるわけではありません。対象となる処分や訴えの利益など、法律上の要件を満たす必要があります。
8.無効等確認の訴えは、誰でも起こせるわけではない
無効等確認の訴えについては、行政事件訴訟法第36条が原告適格などを定めています。
同条によると、無効等確認の訴えを提起できるのは、当該処分に続く処分によって損害を受けるおそれがある者や、その他その処分の無効等の確認を求めることについて法律上の利益を有する者で、さらに、一定の要件を満たす者に限られます。
特に重要なのが、次の部分です。
「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」
これは、一般に「補充性」と呼ばれる要件です。
簡単にいえば、処分の効力を前提とする現在の法律関係についての訴訟によって目的を達成できるのであれば、原則として、無効等確認の訴えを利用することはできないということです。
例えば、ある処分が無効であることを前提に、現在の権利関係そのものについて争うことで、目的を達成できる場合があります。そのような場合には、処分の無効確認を別途求める必要があるのかが問題となります。
このように、無効等確認の訴えは、出訴期間の制限がないからといって、誰でも、いつでも、自由に利用できる制度ではありません。
処分の無効等を確認する法律上の利益があることに加え、現在の法律関係に関する訴えでは目的を達成できないことなどが必要となります。
9.まとめ――取消訴訟と無効等確認の訴えは、目的と要件を区別して理解する
取消訴訟と無効等確認の訴えは、どちらも行政処分の効力をめぐる紛争を解決するための訴訟ですが、何を求めるのか、どのような要件が必要なのかが異なります。
取消訴訟は、違法な処分を取り消してもらうための訴訟です。これに対して、無効等確認の訴えは、処分の存否や効力の有無について確認を求める訴訟です。
行政処分に違法な点があったとしても、それだけで当然に無効となるわけではありません。無効と認められるためには、原則として重大かつ明白な瑕疵が必要とされますが、判例上、例外的な判断もあります。
また、取消訴訟には出訴期間がありますが、無効等確認の訴えには同じ出訴期間の制限がありません。しかし、出訴期間が過ぎたからといって、無効等確認の訴えを起こせば必ず救済されるわけではありません。
そして、処分の存否を確認することと、行政庁に処分をするよう求めることも別です。前者は無効等確認の訴えが問題となり、後者は義務付けの訴えが問題となります。
行政事件訴訟法の各訴訟類型を理解するうえでは、名称だけを暗記するのではなく、何を裁判所に求めているのか、どのような法的問題を解決しようとしているのかを考えることが大切です。
※本記事は、行政事件訴訟法の制度と判例の考え方を一般向けに解説したものです。個別の処分が無効となるかどうかは、具体的な事実関係や適用法令に基づいて判断されます。
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大野