AIに契約書をチェックさせたら「問題ありません」と言われた。本当に大丈夫?
「この契約書に問題がないか、AIにチェックしてもらった」
最近では、契約書をAIに読み込ませて、リスクや不備がないか確認することも珍しくなくなりました。
しかも、AIから、
「特に問題ありません」
「一般的な契約書として適切な内容です」
「重大な問題は見当たりません」
などと回答されると、「それなら、このまま契約しても大丈夫だろう」と思ってしまうかもしれません。
しかし、ここには一つ注意が必要です。
AIが「問題ありません」と答えたことと、その契約書が「自分にとって問題のない契約書」であることは、同じではありません。
では、なぜAIは「問題ありません」と回答するのでしょうか。
AIが「問題ありません」と答えても安心できない理由
AIによる契約書チェックには、もちろん便利な面があります。
条項の抜け漏れを探したり、分かりにくい表現を指摘したり、一般的に注意すべき条項を洗い出したりする際には、AIを活用できます。
実際、AIを契約書レビューの補助として利用することは、現在の法務実務でも検討されています。日本組織内弁護士協会(JILA)でも、AIによる論点発見などを活用しながら、最終的には人が契約書を確認することの重要性が紹介されています。
一方で、AIの「問題ありません」という回答には、いくつかの落とし穴があります。
1.「問題」の基準が分からない
そもそも、契約書における「問題」とは何でしょうか。
例えば、次のような契約があったとします。
- 損害賠償の上限が設定されていない
- 契約期間が非常に長い
- 解約しにくい
- 支払条件が相手方に有利
- 秘密保持義務が一方的に設定されている
- 契約違反時の違約金が高額
- 成果物の権利がすべて相手方に帰属する
これらは、必ずしも「法律上無効な条項」というわけではありません。
しかし、
「自分にとって受け入れてよい条件なのか」
という問題は別です。
AIが「違法ではない」「一般的な契約書として成立する」と判断できたとしても、それだけで「あなたにとって有利な契約」とは限りません。
2.契約書だけを見ても分からないことがある
契約書の内容をチェックするときに重要なのは、契約書そのものだけではありません。
例えば、同じ業務委託契約書でも、
「発注者側なのか」
「受注者側なのか」
によって、注意すべきポイントは変わります。
さらに、
- どのような取引なのか
- 相手方との関係はどうなのか
- どちらが価格を決めたのか
- 交渉の余地があるのか
- 実際にどのような業務を行うのか
- 契約書に書かれていない約束があるのか
- トラブルになった場合に何が一番困るのか
といった事情によっても、契約書を見るポイントは変わってきます。
つまり、
「契約書に書いてあること」だけでは、契約のリスクをすべて把握できない場合があります。
AIに契約書だけを渡して、
「この契約書に問題はありますか?」
と質問したとしても、AIにはその契約の背景までは分かりません。
3.「問題ありません」は「リスクがありません」ではない
ここは特に注意したいところです。
AIが、
「重大な問題はありません」
と回答したとしても、それは、
「この契約によって将来トラブルが起きる可能性はありません」
という意味ではありません。
例えば、契約書に、
「甲は、乙に生じた損害について一切責任を負わない。」
という条項が入っていたとします。
AIがこの条項について、
「免責条項として一般的な内容です」
と説明することも考えられます。
しかし、契約を締結する側からすれば、
「もし相手のミスで大きな損害が発生した場合でも、相手に請求できないのでは?」
ということが重要になります。
ここで問題になるのは、単純な条文の良し悪しだけではありません。
その契約を結ぶことで、自分がどのようなリスクを負うのか。
これを考える必要があります。
AIの契約書チェックで本当に見るべきこと
では、AIを使って契約書をチェックすることに意味がないのでしょうか。
そんなことはありません。
むしろ、AIは契約書を確認するための便利な「入口」になります。
例えば、
「この契約書で注意すべき条項を列挙してください」
「受注者側に不利になり得る条項を探してください」
「損害賠償、解除、契約期間、知的財産権について確認してください」
など、具体的な観点を指定して確認することで、契約書を読む際の手がかりを得ることができます。
ただし、
AIにチェックさせることと、契約書の内容を理解することは別です。
AIから出てきた結果をそのまま「安全確認」として使うのではなく、
「ここを確認したほうがいい」
という論点を見つけるために使うほうが、AIの活用方法としては適しています。
「問題ありません」より重要なのは、「何が問題ないのか」
AIに契約書をチェックさせるのであれば、
「問題ありますか?」
だけで終わらせないことも大切です。
例えば、
- 自分に不利な条項はありますか?
- 相手方に有利な条項はありますか?
- 損害賠償のリスクはありますか?
- 契約解除について不利な点はありますか?
- 契約終了後にも義務が残る条項はありますか?
- 書かれていない重要事項はありますか?
- この契約を締結した場合、将来どのようなトラブルが考えられますか?
など、具体的に質問してみます。
そうすると、単に「問題ありません」と答えさせるよりも、契約書について考える材料を増やすことができます。
ただし、それでもAIの回答が正しいとは限りません。
AIは、もっともらしい説明をしながら誤った内容を出すことがあります。
法務省の資料でも、AI活用における課題としてハルシネーション(誤情報を鵜呑みにすること)などが挙げられています。
「AIに問題ないと言われたから契約する」は危険
契約書は、単なる文章ではありません。
そこに書かれている内容によって、
「誰が何をするのか」
「誰がいくら支払うのか」
「トラブルが起きたら誰が負担するのか」
「契約をどうやって終了できるのか」
といった、当事者間の権利や義務が決まります。
だからこそ、
「AIが問題ないと言ったから大丈夫」
ではなく、
「AIを使って問題になりそうなところを洗い出し、その内容を自分でも確認する」
という使い方が重要です。
AIは契約書を読むための強力なサポート役にはなります。
しかし、最終的に大切なのは、
「この契約で、自分は何を約束することになるのか」
を理解することです。
AIに契約書をチェックさせるなら、最後に確認したい3つのこと
最後に、AIで契約書をチェックした後に確認しておきたいポイントをまとめます。
① 「問題ありません」の意味を確認する
「法律上問題がない」という意味なのか、
「一般的な契約書として不自然ではない」という意味なのか、
「重大なリスクが見つからなかった」という意味なのか。
AIの回答を鵜呑みにせず、何を基準に「問題ない」と言っているのかを確認しましょう。
② 自分にとって不利な条項を確認する
契約書は、単に「適切かどうか」だけを見るものではありません。
自分の立場から、
「この条件を受け入れて本当に大丈夫なのか」
を確認する必要があります。
③ 分からない部分を残したまま契約しない
AIの説明を読んでも、
「結局、この条項は自分に何を求めているの?」
と分からない部分があるなら、そのまま契約を進めないことです。
契約書で一番怖いのは、内容を理解しないまま「問題なさそうだから」と署名してしまうことです。
AIは「契約書をチェックする人」ではなく、「契約書を考えるための道具」
AIによる契約書チェックは、これからますます身近なものになっていくでしょう。
実際、法務省も2026年8月にAI等を利用した法務業務支援サービスについて新たなガイドラインを公表しており、AIを利用した契約書の作成・審査などについて、法的な整理が進められています。
だからといって、
「AIにチェックさせれば、専門家に確認してもらう必要はない」
ということにはなりません。
むしろAIが身近になるほど、
「AIが何を確認できて、何を確認できないのか」
を理解することが重要になります。
AIから「問題ありません」と言われたときこそ、
「何について問題がないのだろう?」
と一度立ち止まってみる。
それだけでも、契約書との向き合い方は大きく変わります。
AIは、契約書を確認するための便利な道具です。
でも、契約を結ぶのはAIではありません。
最終的にその契約を引き受けるのは、あなた自身です。
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感情や立場の違いが関わる問題は、早めに整理しておくことで 将来のトラブルを防げる場合があります。
大野