行政庁と行政機関は何が違う? そもそも「機関」とは何なのか

行政法を勉強していると、「行政庁」や「行政機関」という言葉が登場します。

どちらも行政に関係する言葉ですし、場合によっては同じような意味に見えることもあります。

しかし、行政法では、この2つを区別して考えます。

例えば、市長は行政庁に当たります。一方、市役所には市長のほかにも、副市長、職員、審議会など、さまざまな人や組織が関係しています。

では、行政庁と行政機関は、具体的に何が違うのでしょうか。

そもそも「機関」とは何を意味するのでしょうか。

今回は、用語を丸暗記するのではなく、行政組織の仕組みから考えてみます。

目次

1.そもそも「機関」とは何なのか

まず、「行政庁」と「行政機関」の違いを考える前に、「機関」という言葉から整理してみましょう。

日常生活では、「機関」という言葉をさまざまな場面で使います。

例えば、金融機関、交通機関、教育機関などです。

これらに共通しているのは、何かの役割や機能を担う存在だということです。

金融機関であれば、お金を預かったり、融資をしたりする役割があります。交通機関であれば、人や物を運ぶ役割があります。

つまり、「機関」という言葉は、単に人や建物を指すのではなく、何らかの役割を担う仕組みや、その役割を担う存在という意味で使われます。

行政組織についても同じように考えることができます。

国や地方公共団体が仕事をするためには、さまざまな役割を担う人や組織が必要です。

政策を決める人、許可を出す人、調査をする人、書類を作成する人、専門的な意見を述べる人などがいます。

こうした行政の仕事を担う存在を、行政法では「行政機関」と呼びます。

ただし、行政機関という言葉は、文脈によって広い意味で使われることもあります。行政法の伝統的な整理では、それぞれの権限や役割に応じて、行政庁や補助機関などに分類します。

2.行政機関は、行政の仕事を担う存在の総称

例えば、市役所を考えてみましょう。

市役所では、市民からの申請を受け付けたり、税金を計算したり、許可や認定に必要な資料を確認したりしています。

しかし、これらの仕事を、すべて同じ人が行っているわけではありません。

申請書を受け付ける職員もいれば、書類を確認する職員もいます。専門的な意見を述べる審議会が設置されていることもあります。

行政組織の中には、さまざまな役割があるのです。

こうした役割を担う存在を、行政機関という大きなくくりで捉えることができます。

そして、その中には、行政上の意思を決定して外部に示す役割を担う機関もあります。

それが「行政庁」です。

つまり、行政庁と行政機関は、まったく別々のものというより、行政機関という広い枠組みの中で、特定の権限や役割に着目したものが行政庁だと考えると、理解しやすくなります。

3.行政庁とは何なのか

行政庁とは、行政上の意思を決定し、それを外部に表示する権限を持つ機関のことです。

例えば、市長が営業許可を出したり、知事が許可を取り消したりする場合を考えてみましょう。

こうした処分は、単に職員が個人的な意見を述べているわけではありません。

法律に基づいて、行政として許可する、あるいは許可を取り消すという意思を示しているのです。

このような権限を担う機関が行政庁です。

代表的な例としては、次のようなものがあります。

  • 国土交通大臣
  • 都道府県知事
  • 市町村長
  • 法律によって行政処分の権限を与えられた各種の機関

ここで注意したいのは、行政庁は必ずしも「〇〇庁」という名称の組織ではないということです。

「庁」と聞くと、気象庁や警察庁のような組織をイメージするかもしれません。

しかし、行政法上の「行政庁」は、名前に「庁」が付いているかどうかで決まるものではありません。

法律上、どのような権限を持っているかによって判断します。

また、行政庁は特定の個人そのものでもありません。

例えば、市長が交代しても、市長という機関の権限は引き続き存在します。

そのため、行政庁は「今、その役職に就いている人」と完全に同じものではなく、行政上の権限を担う機関として理解する必要があります。

4.行政機関には、行政庁以外にもさまざまな種類がある

行政機関は、行政庁だけで構成されているわけではありません。

行政法の伝統的な分類では、行政機関を、その役割によっていくつかに分けて考えます。

① 行政庁

行政上の意思を決定し、外部に表示する権限を持つ機関です。

例:大臣、知事、市町村長など。

② 諮問機関

行政庁から意見を求められ、専門的な知識や意見を提供する機関です。

例:審議会など。

審議会が意見を述べたからといって、必ずしも審議会自身が行政処分を決定するわけではありません。

③ 補助機関

行政庁の仕事を補助する機関です。

例:行政庁を補佐する職員など。

書類を作成したり、資料を調査したり、申請内容を確認したりする仕事がこれに当たります。

④ 執行機関

行政上の意思を実力をもって実現する役割を担う機関です。

例:警察官など。

なお、行政機関の分類や各機関の法的な位置づけは、制度によって異なることがあります。上記は行政法の基本的な理解のための整理です。

このように、行政組織の中には、決定する役割、意見を述べる役割、補助する役割、実力をもって執行する役割などがあります。

行政庁は、その中でも行政上の意思を決定し、外部に示す権限に着目した分類なのです。

5.会社に置き換えると、どうなる?

ここまでの説明を、会社に置き換えて考えてみましょう。

会社には、社長、部長、担当者、会議体など、さまざまな役割があります。

担当者が資料を作り、部長が内容を確認し、社長が会社としての意思を決定して取引先に伝える場面を想像してください。

それぞれが同じ会社に関係していても、担っている役割は違います。

行政組織も、イメージとしてはこれに似ています。

行政庁は、行政としての意思を決定し、外部に示す権限を担う機関です。

一方、行政機関という言葉は、そうした行政の仕事を担う存在を、より広く捉えるために使われます。

ただし、会社の社長と行政庁が法的に同じ仕組みだというわけではありません。行政庁の権限は法律によって定められており、会社の内部権限とは異なる点に注意が必要です。

6.行政庁と行政機関の違いを、行政事件訴訟法で考える

この違いは、行政事件訴訟法を読むと重要になってきます。

例えば、行政事件訴訟法11条は、取消訴訟の被告について定めています。

同条1項では、処分や裁決をした行政庁が国や公共団体に所属する場合、原則として、その行政庁が所属する国や公共団体を被告にするとしています。

例えば、市長が行政処分をした場合、原則として市長個人ではなく、その市長が所属する市を被告にします。

ここで登場する「行政庁」は、単に行政組織に関係する人を指しているわけではありません。

行政処分をする権限を担う機関を指しています。

一方、申請書を受け付けた職員や、資料を確認した職員も、行政の仕事に関係しています。しかし、そのことだけで、その職員自身が行政庁になるわけではありません。

誰が行政庁に当たるかは、どのような仕事をしたかという事実だけでなく、法律上、どの機関に処分権限が与えられているかによって決まります。

そのため、行政法を理解する際には、「行政に関係する人や組織」と「行政上の意思を決定する権限を持つ機関」を区別することが重要です。

7.結局、行政庁と行政機関はどう違うのか

ここまでの内容をまとめると、次のようになります。

用語意味
行政機関行政の仕事を担う機関を広く捉えた言葉
行政庁行政上の意思を決定し、外部に表示する権限を持つ機関
補助機関行政庁などの仕事を補助する機関
諮問機関行政庁などに専門的な意見を提供する機関

行政庁と行政機関の違いは、行政庁が行政機関の中でも、特定の権限や役割に着目した概念であるという点にあります。

行政機関という言葉だけでは、その機関が何をするのかまではわかりません。

行政庁なのか、補助機関なのか、諮問機関なのかを区別することで、その機関がどのような権限を持ち、どのような役割を果たしているのかが見えてきます。

行政法では、言葉の意味を暗記するだけではなく、その言葉が行政組織の中でどのような役割を果たしているのかを理解することが大切です。

「行政庁」と「行政機関」の違いも、行政組織の中にさまざまな役割があることを意識すると、理解しやすくなるのではないでしょうか。

大野

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