「善良な管理者の注意義務」って結局どういう意味?
契約書を読んでいると、
「善良な管理者の注意をもって、これを管理するものとする」
といった条文を見かけることがあります。
「善良な管理者の注意義務」と書かれていても、少し分かりにくいですよね。
「善良な管理者」という人が実際に存在するのか。
「普通に注意しておけばいい」という意味なのか。
それとも、かなり厳しい注意義務が課されているのか。
今回は、契約書でよく登場する「善良な管理者の注意義務」について、できるだけ分かりやすく解説します。
「善良な管理者の注意義務」とは?
簡単にいうと、
その立場・職業・能力などに応じて、一般的に求められる程度の注意を払って物事を管理する義務
のことです。
「善良な管理者の注意義務」は、法律上「善管注意義務」と略して呼ばれることもあります。
ここで重要なのは、単純に「普通の人ならどうするか」だけで決まるわけではないということです。
その人がどのような立場にあるのかによって、求められる注意の程度が変わります。
「善良な管理者」という人がいるわけではない
初めてこの言葉を見ると、
「善良な管理者という人物を基準にするの?」
と思ってしまうかもしれません。
もちろん、特定の人物を指しているわけではありません。
ここでいう「善良な管理者」とは、簡単にいえば、
その立場にある人として、通常期待される程度の注意を払う人
というイメージです。
例えば、専門的な仕事を任されている人と、専門知識を持たない一般の人とでは、当然ながら求められる注意の程度は同じではありません。
例えば「預かった物を管理する」場合
分かりやすい例として、他人から大切な物を預かったケースを考えてみましょう。
契約によって、
「受託者は、善良な管理者の注意をもって預託物を管理する。」
と定められていたとします。
この場合、単に
「なくさなければいい」
という程度ではありません。
預かった物の性質や保管方法などを考え、通常求められる適切な管理をすることが必要になります。
例えば、高価な美術品を預かっているのであれば、一般的な荷物と同じように扱うことは適切とはいえないでしょう。
保管場所や温度、湿度、盗難防止など、その物に応じた管理が必要になる場合があります。
つまり、
「ちゃんと注意して管理してください」というだけではなく、「その立場や預かった物の性質に応じて、相応の注意を払ってください」という意味
なのです。
「自分では十分注意した」は通用する?
ここも重要なポイントです。
善管注意義務では、
「私は自分なりに十分注意しました」
というだけで義務を果たしたことになるとは限りません。
問題になるのは、
その立場にある人として、一般的に要求される注意を払っていたか
という点です。
例えば、専門家に仕事を依頼した場合を考えてみましょう。
依頼を受けた専門家が、
「私はこれまでこの方法でやってきたので、問題ないと思いました」
と説明したとしても、その立場の専門家として通常求められる対応をしていなければ、善管注意義務を果たしたとは評価されない可能性があります。
「普通の注意」と何が違う?
「善管注意義務」と似た言葉として、
「自己の財産に対するのと同一の注意」
という考え方があります。
これは、
「自分の物を管理するときと同じ程度の注意をしてください」
という考え方です。
一方、善管注意義務は、
その人の立場に応じて、一般的に期待される注意を払う
という考え方です。
そのため、単に「自分だったらこれくらい注意する」という基準ではなく、客観的に見て、その立場にある人にどの程度の注意が求められるのかが問題になります。
契約書ではなぜ「善管注意義務」と書くの?
契約書では、物や情報などを相手に預けたり、業務を委託したりする場面があります。
例えば、
- 業務を委託する
- 商品を預ける
- 貸与した物を管理してもらう
- 秘密情報を取り扱ってもらう
- 顧客情報などを扱ってもらう
といったケースです。
このような場合に、
「受託者は、善良な管理者の注意をもって本件業務を遂行する。」
などと定めておくことで、受託者に一定の注意義務を負わせることができます。
特に業務委託契約書などでは、比較的よく登場する表現です。
では、違反するとどうなる?
善管注意義務に違反したからといって、必ず直ちに損害賠償が発生するというわけではありません。
実際には、
- どのような契約だったのか
- どのような義務を負っていたのか
- どの程度の注意が求められていたのか
- どのような行為をしたのか
- その結果、どのような損害が発生したのか
- 契約書にどのような定めがあるのか
などを具体的に検討する必要があります。
つまり、
「善管注意義務」という一言だけで、具体的な責任の範囲がすべて決まるわけではありません。
ここは契約書を読むうえで非常に重要なところです。
「善管注意義務」と書いてあれば安心、ではない
契約書を作成するとき、
「とりあえず善管注意義務と書いておけば大丈夫」
と考えるのはおすすめできません。
なぜなら、「善管注意義務」という言葉だけでは、具体的に何をしなければならないのかが明確にならない場合があるからです。
例えば業務委託契約であれば、
- どのような業務を行うのか
- どのように情報を管理するのか
- どのような報告を行うのか
- トラブルが発生した場合にどうするのか
- 再委託を認めるのか
- 契約終了後に資料をどう扱うのか
などを具体的に定めておくことで、契約当事者が負う義務をより明確にできます。
「善管注意義務」という一般的な表現と、具体的なルールを組み合わせることが重要です。
契約書に出てきたら、何を確認すればいい?
契約書の中で「善良な管理者の注意義務」という言葉を見つけたら、まず次の点を確認してみましょう。
① 誰が義務を負うのか
委託者なのか、受託者なのか。
契約書全体を確認して、誰に注意義務が課されているのかを確認します。
② 何について注意するのか
「本件業務」「預託物」「秘密情報」など、対象を確認します。
③ 具体的な管理方法が定められているか
「善管注意義務」とだけ書かれているのか、それとも具体的な管理方法まで定められているのかを確認します。
④ 違反した場合の責任がどうなっているか
損害賠償、契約解除、違約金など、別の条項との関係も確認する必要があります。
「善管注意義務」は、契約書の“万能ワード”ではない
「善良な管理者の注意義務」という言葉は、一見すると非常に便利です。
しかし、契約書において大切なのは、難しい法律用語を並べることではありません。
「誰が、何を、どこまで行うのか」
をできるだけ明確にすることです。
善管注意義務という言葉を使う場合でも、必要に応じて具体的な義務や管理方法を契約書に落とし込んでおくことで、契約内容をより明確にできます。
まとめ
「善良な管理者の注意義務」を一言で説明すると、
「その立場にある人として、一般的に求められる程度の注意を払って管理・業務を行う義務」
ということになります。
「自分なりに注意したから大丈夫」という意味ではなく、その立場に応じて客観的に求められる注意が基準になる点がポイントです。
契約書でこの言葉を見つけたときは、
「結局、この契約では何をどこまで注意して行うことが求められているのか?」
という視点で、契約書全体を確認してみると理解しやすくなります。
契約書は、法律用語を入れれば入れるほど良いというものではありません。
大切なのは、契約当事者が「何をしなければならないのか」を具体的に理解できる内容になっているかです。
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感情や立場の違いが関わる問題は、早めに整理しておくことで 将来のトラブルを防げる場合があります。
大野