「転売禁止は独禁法違反なのか?──メーカーの自由と市場の公正のあいだ」
人気チケットや限定スニーカーの購入サイトで、
「転売禁止」「再販売不可」という文言をよく目にする。
買ったものをどう扱うかは“所有者の自由”のはず。
だが企業は「ブランドを守るため」と称して販売制限を設ける。
このとき浮かび上がるのが――独占禁止法の問題だ。
消費者の自由と企業の管理、どちらに法は味方するのだろうか。
〇転売禁止とは何を指すのか
・「転売禁止」とは、購入者が商品を第三者に再販売することを制限する行為。
・形態はさまざま:
- 利用規約で禁止
- チケットに氏名記載
- シリアルナンバーによるトレース
・目的は「価格の維持」「ブランド価値の保護」「転売ヤー対策」など。
しかし、これが行き過ぎると独占禁止法(第19条)違反の疑いが生じる。
〇独占禁止法の基本構造
・独禁法は「公正かつ自由な競争」を守る法律。
・問題となるのは「不公正な取引方法」(公正取引委員会告示)。
→ 特に「再販売価格の拘束(Resale Price Maintenance)」や
「流通経路の制限」が焦点になる。
・つまり、企業が「買った後の販売価格やルート」を縛ると違法の可能性が。
〇「再販売価格の拘束」との違い
・典型例:メーカーが小売店に「1万円以上で売れ」と命じる → 違法となりうる。
・一方、「転売禁止」は販売後の流通段階を縛る点で似て非なるもの。
・ただし、
- 販売数量を制限
- 再販売を一律禁止
などが競争を実質的に制限する場合、
法律上優越的地位の濫用(独禁法第2条9項5号)や
拘束条件付取引に該当することもある。
〇「正当な理由」がある場合は合法
・公取委の立場:
「転売禁止」が品質保持・安全確保・知的財産保護を目的とする場合は許容される。
・例:
- 医薬品や食料品 → 安全管理上の理由
- イベントチケット → ダフ屋防止(入場管理上の合理性)
- 高級ブランド品 → 偽物・模倣品対策として合理的範囲
等が考えられる。
〇実例・グレーゾーン
チケット転売禁止法(2019年施行):興行チケットに限定し、営利目的転売を刑事罰化。
スニーカー・家電・ゲーム機:法律ではなく利用規約ベース。
→「転売目的購入者への販売拒否」は可能だが、「個人転売の一律禁止」はリスクあり。
最後に
転売を完全に悪と断じることはできない。
市場があってこそ、価値は生まれる。
しかし、無秩序な転売は消費者を傷つけ、信頼を壊す。
法はその間で、静かにバランスをとろうとしている。
“所有の自由”と“取引の公正”――
そのあいだで揺れる一枚のチケット、一足のスニーカー、
そして、私たちの社会のルール。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本