AIが作った契約書でトラブルになったら、誰が責任を負う?
「ChatGPTに契約書を作ってもらった」
そんな話も、今では珍しくなくなりました。
取引内容を入力すれば、契約書らしい文章が短時間で出てきます。以前なら、インターネットでひな型を探し、必要な部分を書き換えていたところを、AIに質問しながら作成することもできます。
では、もしその契約書が原因でトラブルになったら、誰が責任を負うのでしょうか。
「AIが間違えたのだから、AIの責任では?」
と思うかもしれません。
しかし、契約実務では、そう簡単な話ではありません。
AIは契約の当事者ではない
まず大前提として、AIは契約の当事者ではありません。
例えば、あなたがAIに、
「業務委託契約書を作って」
と指示し、AIが契約書の案を作ったとします。
その契約書をあなたが確認し、取引先に提示して、双方が内容に合意して契約を締結した。
この場合、契約をしたのは「あなた」と「取引先」です。
AIではありません。
したがって、後になって契約内容に問題が見つかったとしても、
「この条項はAIが作りました」
「私はAIの回答をそのまま使っただけです」
というだけで、契約上の責任から逃れられるわけではありません。
AIは、あくまで契約書を作成するために利用した「道具」の一つと考える必要があります。
実際、AIが作成した契約書についても、重要なのは「AIが作ったかどうか」ではなく、最終的にどのような内容で当事者が合意したのか、という点です。
「AIが間違えた」は免責理由になるのか?
例えば、こんなケースを考えてみましょう。
ある会社がAIを使って業務委託契約書を作成しました。
AIに、
「Webサイト制作を外注するための業務委託契約書を作ってください」
と入力したところ、それらしい契約書が完成。
担当者は細かい内容を十分に確認しないまま、取引先と契約を締結しました。
ところが数か月後、問題が発生します。
「制作物の著作権は誰に帰属するのか」
という重要な点について、双方の認識が食い違っていたのです。
契約書には、著作権について一応の条項はありました。
しかし、その条項が今回の取引内容に合っておらず、どこまでの権利を移転するのかも明確ではありませんでした。
そこで会社側が、
「AIがこの条項を作ったので、AIの責任です」
と言ったとしても、それで問題が解決するわけではありません。
AIは契約を締結していません。
最終的にその契約書を確認し、取引先に提示し、契約を締結したのは人間です。
「AIを使ったこと」と「AIに任せたこと」は違う
ここは非常に重要なポイントです。
AIを使って契約書を作ること自体が危険なのではありません。
問題になりやすいのは、
「AIが作ったから大丈夫だろう」と確認を省いてしまうこと
です。
例えば、
- 取引内容をAIに整理してもらう
- 契約書のたたき台を作ってもらう
- 条項の候補を出してもらう
- 難しい条文を分かりやすく説明してもらう
- 自分で作った契約書について確認すべきポイントを挙げてもらう
こうした使い方であれば、AIを便利な補助ツールとして活用することができます。
一方で、
「AIが作ったから、そのまま使おう」
となると話が変わります。
契約書は、文章として自然であればよいものではありません。
その取引に本当に必要な内容が入っているか。
自社が実際に行うことと条文が一致しているか。
相手方との責任分担が適切になっているか。
こうした点が重要だからです。
AIは「それらしい契約書」を作るのが得意
AI契約書の怖さは、明らかにおかしな文章が出てくることだけではありません。
むしろ注意したいのは、
一見すると非常によくできた契約書が出てくること
です。
文章としては自然。
条項もたくさん入っている。
契約書としての体裁も整っている。
しかし、その中に、
「今回の取引には必要のない条項」
「自社の実際の業務とは合っていない条項」
「一見もっともらしいが、意味が曖昧な条項」
が含まれている可能性があります。
AIが契約書の文章を作る能力と、その会社の取引を正確に理解して契約条件を設計することは、同じではありません。
そのため、AIで契約書を作る場合には、
「文章を作る作業」と「契約内容を決める作業」を分けて考える
ことが大切です。
では、AIサービスの提供会社には責任を問えないのか?
ここも少し複雑です。
AIを使って作成した契約書に問題があったからといって、当然にAIサービスの提供会社が責任を負う、というわけではありません。
実際に責任を問えるかどうかは、
- どのようなサービスだったのか
- 利用規約にどのような定めがあるのか
- サービス提供者が何を保証していたのか
- どのような原因で損害が発生したのか
- 利用者側にどのような確認義務があったのか
など、具体的な事情によって変わります。
つまり、
「AIが間違えた=AI会社が損害を賠償してくれる」
という単純な構造ではありません。
AIを利用する側も、サービスの利用条件や免責条項などを確認しておく必要があります。
結局、AI契約書の責任は誰にある?
ここまでを整理すると、AIで作った契約書についてトラブルが発生した場合、
まず考えるべきなのは「AIが作ったか」ではなく、「誰がどのような契約を締結したのか」です。
AIそのものが契約当事者になるわけではありません。
したがって、AIが作成した契約書を確認して契約を締結した当事者は、
「AIがそう書いたから」
という理由だけで契約上の責任を免れることはできません。
一方で、AIサービス提供者については、サービスの内容や契約条件、具体的な損害発生の経緯などによって、別途責任が問題となる可能性があります。
この二つは分けて考える必要があります。
AI時代に必要なのは「AIを使わないこと」ではない
ここまで読むと、
「やっぱりAIで契約書を作るのは危険なのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
むしろ重要なのは、
AIをどこまで使い、どこから人間が確認するのかを決めておくこと
です。
例えば、
① 取引内容を整理する
↓
② AIに契約書のたたき台を作ってもらう
↓
③ 出てきた契約書を自社の取引内容と照らし合わせる
↓
④ 不足している条件や不要な条項を確認する
↓
⑤ 必要に応じて専門家に確認してもらう
↓
⑥ 内容を理解した上で契約を締結する
という流れです。
このように考えれば、AIは非常に便利な道具になります。
「AIに作らせる」と「AIに任せる」は違う
AI契約書について、最後に一つ覚えておきたいことがあります。
それは、
「AIに作らせること」と「AIに任せること」は違う
ということです。
AIに契約書のたたき台を作ってもらう。
これは、これからますます一般的になっていくでしょう。
しかし、その契約書を自分の取引に合わせて確認し、必要な条件を整え、最終的に契約を結ぶのは人間です。
契約書は、単なる「文章」ではありません。
そこには、
「誰が」
「何をして」
「いくら支払い」
「どこまで責任を負い」
「問題が起きたときにどうするのか」
という、当事者同士の約束が書かれています。
だからこそ、AIに文章を作ってもらうことはできても、その契約によって何を約束するのかまでAI任せにしてしまうのは危険です。
AI時代の契約書作成では、
「誰が文章を書いたのか」よりも、「誰が契約内容を理解し、最終的に合意したのか」
が重要になっていくのではないでしょうか。
なお、AIを利用した契約書作成サービスそのものについても、別の法律上の問題があります。法務省は2026年8月、AI等を用いた法務業務支援サービスと弁護士法72条との関係について、新たなガイドラインを公表しました。これは「AIが作った契約書の責任」を定めるものではなく、AIを利用して法務業務を支援するサービスが弁護士法72条との関係でどのように整理されるかを示すものです。
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感情や立場の違いが関わる問題は、早めに整理しておくことで 将来のトラブルを防げる場合があります。
大野