契約書を交わすと、なんとなく「これで絶対に守られる」と思いがちです。
しかし実際には、契約書に書いてある=必ず法律上実現できるわけではないことをご存じでしょうか?

この記事では、契約書に書かれている損害賠償条項が、なぜ「法的根拠」がなければ請求できないのか、そしてどんな構成が必要なのかを、身近な例を用いてわかりやすく解説します。

そもそも契約書とは?法的な意味と限界

契約書は、「当事者同士が何をどう約束したのか」を確認する書面であり、法律上の証拠としてとても重要です。
ただし、契約書の内容が法的にすべて実現可能とは限りません。

✅ 抽象的効力と具体的請求権の違い

用語意味請求できる?
抽象的効力約束としての意味。道義的拘束力。請求は難しい
具体的請求権法律で認められた損害賠償などの権利請求可能

つまり、「誠実に対応すること」「浮気をしないこと」などの抽象的な約束だけでは、損害賠償の根拠にはなりません。

【具体例】不倫したら100万円払うという契約は有効?

例えば、次のような契約を結んだとします。

「今後、夫婦のどちらかが不倫をしたら、相手に100万円を支払う」

一見、合理的な取り決めのようにも思えますが、これだけでは必ずしも法的に損害賠償が認められるとは限りません。なぜでしょうか?

法律上の損害賠償請求には「構成」が必要

契約書に損害賠償条項が書かれていても、以下のどれかに該当しなければ法的請求はできません。

法的構成条文内容
債務不履行民法415条契約の義務を守らなかった場合
不法行為民法709条故意・過失で他人に損害を与えた場合
不当利得民法703条正当な理由なく利益を得た場合
事務管理民法697条他人のために勝手に事務を処理した場合(レアケース)

▶ 不倫の場合はどの構成?

  • 法律婚または内縁関係があれば、不貞行為は「不法行為」として損害賠償の対象になります。
  • しかし、ただの恋人関係や曖昧な同棲関係では、法律が保護する関係とはみなされず、損害賠償は認められにくいのが現実です。

ケース別:損害賠償が認められるか?

関係性損害賠償の可否理由
法律婚(婚姻届あり)✅認められる法律で保護される婚姻関係
内縁関係(実質的夫婦)✅認められる社会通念上の夫婦関係と判断される場合あり
事実婚・同棲のみ△限定的に可能性あり実態次第。保護されない可能性も高い
交際関係(恋人)❌原則認められない法的保護の対象ではない

【注意】契約書が「公序良俗」に反する場合は無効に

例えば「浮気したら1億円払う」「交際相手とLINEしたら罰金50万円」など、過度な制裁的取り決めは、「公序良俗違反(民法90条)」として無効とされる場合があります。

つまり、「契約してるから絶対大丈夫」とは言い切れないのです。

【結論】契約書は万能ではない。請求には「法的構成」が不可欠

  • 契約書に損害賠償と書いてあっても、それだけで請求できるとは限りません。
  • 主張する権利(債権)が法的保護に値している必要があります。
  • 必ず民法上の構成(債務不履行、不法行為など)が成立している必要があります。
  • 特にプライベートな契約や感情的な約束(浮気・恋愛・別れなど)では、法的請求が難しいケースも多いです。

💡対策アドバイス

  • 契約書を作成する際は、法的に有効な内容になっているか専門家に確認しましょう。
  • 損害賠償条項を入れる場合は、「どういう行為がどういう損害にあたるのか」を明確にしておくことが重要です。

📝最後に

契約書は、ただの紙ではありません。でも「書いてあるから大丈夫」という過信も危険です。
法的な裏付けがない契約は、トラブル時に効力を発揮できません。

契約に不安がある方、作成前にチェックしたい方は、専門家に相談することをおススメします。

大野