直系尊属という言葉があります。

直系尊属とは、自分から見て、縦の系統の親族のうち上の世代の人たちを言います。

父母、祖父母などがこれに当たります。

直系尊属に関する罪として、1995年の刑法改正まで「尊属殺人」という罪がありました。

現在は削除されています。

刑罰は死刑または無期懲役と規定されていました。

人を殺す殺人罪は刑法199条に現在も規定がありますが、刑法200条には被害者が直系尊属である場合には、殺人罪の刑を重くする尊属殺人罪が設けられていました(何度も言いますが、現在は削除されています)。

殺人罪のみだけでなく、傷害、遺棄、逮捕監禁等にも尊属加重規定が設けられていました。

刑法を制定した時代的に目上の人を大切にしよう、そんな人たちに対して罪を犯すなど言語道断ということで設けられたものだとは思いますが、おかしいのでは?という意見は古くから出ていました。

それは憲法14条に法の下の平等という規定が存在するからです。

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない」

この規定があるにもかかわらず、尊属を法的に特別視することは、法の下に平等に反するのではないか
つまり、身分によって差別しているのではないか、ということが長く言われていましたが、尊属加重規定は残っていました。

そんな中ある事件が発生し、尊属殺人罪が適用されれば、どのように減刑したとしても執行猶予を付けることができない(執行猶予を付けるべきだと誰もが思うような事件だったため)、という問題が生じました。

そこで、最高裁判所は重い腰を上げ、尊属殺人の重罰規定を憲法違反であると判断しました。

尊属殺人罪の規定をおくことは合憲であるが、執行猶予を付けられないほどの重罰規定は、憲法14条1項に違反する(多数意見)
尊属加重罪を設けること自体が憲法に反する(少数意見)

と最高裁判所は判断しています。

その後、国会において刑法が改正され、すべての尊属加重規定は削除されています。

大野