無効等確認の訴えとは?どのような場面で使うのかを具体例で解説
行政事件訴訟法には、行政庁が行った処分について争うための訴訟がいくつか用意されています。その一つが「無効等確認の訴え」です。
名前だけを見ると難しく感じますが、考え方はそれほど複雑ではありません。
例えば、行政庁から許可を受けた人がいたとします。しかし、その許可には重大な問題があり、そもそも法律上の効力が認められないのではないか、という場合があります。
このようなときに問題となるのが、無効等確認の訴えです。
この記事では、無効等確認の訴えとは何か、取消訴訟とは何が違うのか、どのような場面で利用するのか、行政事件訴訟法第36条が定める条件とあわせて解説します。
1.無効等確認の訴えとは何か
まず、行政事件訴訟法第3条第4項を確認しましょう。
この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
この条文では、無効等確認の訴えを、行政庁の処分や裁決について、その存在や効力の有無を確認するための訴訟と定義しています。
ここで重要なのは、処分を取り消してもらうことと、処分がそもそも有効なのかを確認してもらうことは、別の問題であるという点です。
例えば、行政庁がある事業者に営業許可を与えたとします。
その許可に法律上の問題があった場合、考えられる主張には、次のような違いがあります。
- 「この許可は違法だから、取り消してください」
- 「この許可は重大な問題があるため、そもそも無効です。そのことを確認してください」
前者は、原則として取消訴訟で問題となります。後者は、無効等確認の訴えで問題となります。
ただし、処分に何らかの違法があれば必ず無効になるわけではありません。違法の程度などによって、取消しを求めるべき場合と、無効を主張できる場合とが異なります。
2.「処分の存否」と「効力の有無」とは?
第3条第4項には、「存否」と「効力の有無」という二つの表現があります。
似ているようですが、確認しようとしている内容が異なります。
(1)処分の存否を確認する場合
「存否」とは、処分が存在するのか、存在しないのかということです。
例えば、行政庁が処分をしたと主張しているものの、本当にその処分が行われたのかが争いになっている場合を考えてみましょう。
処分が存在するかどうかによって、その後の法律関係が変わるのであれば、処分の存否を確認することが問題となります。
(2)処分の効力の有無を確認する場合
こちらは、処分が形式上は存在していても、法律上の効力を持つのかどうかが問題となる場合です。
例えば、行政庁が許可を与えたという事実自体には争いがないものの、その許可には重大かつ明白な瑕疵があり、法律上無効なのではないか、という場合です。
この場合、問題となるのは、許可が行われたかどうかではありません。その許可に法律上の効力が認められるかどうかです。
なお、条文の「無効等」という表現は、無効確認だけでなく、処分の不存在なども含む幅広い表現です。
3.無効等確認の訴えは、どのような場面で使うのか
具体例を考えてみましょう。
例1:重大な問題のある営業許可が出されていた場合
ある事業者Aが、行政庁から営業許可を受けたとします。
ところが、その許可には、法律上の重大な問題があることが後になって判明しました。
近隣住民Bは、その許可によって自分の法律上保護された利益が侵害されると考えています。
Bは、単に「Aに許可を出したのはおかしい」と不満を述べるだけでは、裁判を起こせるとは限りません。
そこで、許可に重大な瑕疵があり無効であると主張できる場合には、その許可の無効確認を求めることが考えられます。
ただし、Bが訴えを起こせるかどうかは別の問題です。許可に関係する法律がBの利益を個別に保護しているか、ほかの訴訟で目的を達成できないかなどを検討する必要があります。
つまり、処分に問題があることと、自分が無効確認の訴えを起こせることは、同じではありません。
例2:違法な許可に基づいて、後続の処分が行われるおそれがある場合
ある事業者Aが、行政庁から許可を受けたとします。
しかし、その許可が無効であるにもかかわらず、行政庁がその許可を有効なものとして扱い、さらに別の処分を行おうとしている場合を考えてみましょう。
その後続の処分によって、Bが損害を受けるおそれがあるとします。
このような場合、Bは、先行する許可が無効であることを確認してもらう必要があるかもしれません。
行政事件訴訟法第36条は、こうした「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」を、無効等確認の訴えを提起できる者の一つとして挙げています。
もっとも、後続処分による損害のおそれがあれば必ず訴えられるわけではありません。第36条のほかの要件も満たす必要があります。
例3:取消訴訟の出訴期間が過ぎてしまった場合
行政庁から不利益な処分を受けた場合、通常は取消訴訟によって処分の取消しを求めることが考えられます。
しかし、取消訴訟には出訴期間の制限があります。その期間を過ぎると、原則として取消訴訟を提起できなくなります。
では、期間が過ぎたら、処分にどのような問題があっても争えなくなるのでしょうか。
そうとは限りません。
処分に無効と評価されるほどの重大な瑕疵がある場合には、無効等確認の訴えによって争うことが考えられます。
無効等確認の訴えには、取消訴訟と同じ出訴期間の制限は設けられていません。
ただし、これは「期間が過ぎたら無効確認の訴えを起こせばよい」という意味ではありません。単なる違法と無効は区別され、処分を無効といえるだけの瑕疵があるかどうかが問題になります。また、第36条の原告適格などの要件も満たさなければなりません。
4.取消訴訟と無効等確認の訴えは何が違うのか
両者の違いを整理してみましょう。
| 比較する点 | 取消訴訟 | 無効等確認の訴え |
|---|---|---|
| 何を求めるか | 処分などを取り消すこと | 処分などの存否や効力の有無を確認すること |
| 主な問題 | 処分に取消原因となる違法があるか | 処分が存在するか、無効などといえるか |
| 出訴期間 | 原則として制限がある | 取消訴訟と同じ出訴期間の制限はない |
| 主な根拠条文 | 第3条第2項、第9条など | 第3条第4項、第36条など |
特に注意したいのは、無効等確認の訴えが、取消訴訟の出訴期間を回避するために自由に使える制度ではないということです。
処分が違法であることと、処分が無効であることは同じではありません。
行政処分は、違法な点があっても、取り消されるまでは効力を有するものとして扱われる場合があります。一方、無効な処分は、初めから法律上の効力を持たないものとして扱われます。
したがって、無効等確認の訴えでは、処分に瑕疵があるというだけでなく、無効などと評価できるかどうかが重要になります。
5.行政事件訴訟法第36条は何を定めているのか
ここからは、行政書士試験でも重要となる第36条を確認します。
第36条は、無効等確認の訴えを提起できる者について、次のように定めています。
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。
一見すると長い条文ですが、内容は大きく三つに分けて考えられます。
(1)法律上の利益などを有する者であること
第36条は、誰でも無効等確認の訴えを起こせるとはしていません。
まず、次のような者が対象となります。
- 当該処分や裁決に続く処分によって損害を受けるおそれがある者
- その他、当該処分や裁決の無効等を確認することについて法律上の利益を有する者
ここでいう法律上の利益とは、単に「処分が気に入らない」「行政の判断がおかしいと思う」という気持ちのことではありません。
その処分に関係する法律によって、自分の権利や利益が個別に保護されているかどうかなどが問題となります。
例えば、行政庁が誰かに許可を出したことについて、第三者が不満を持っているだけでは、当然に原告適格が認められるわけではありません。
その許可に関する法律の目的や内容などから、その第三者の利益が法律上保護されているといえるかどうかを検討する必要があります。
(2)現在の法律関係に関する訴えでは目的を達成できないこと
ここが第36条の特に重要なポイントです。
条文は、処分の存否や効力の有無を前提とする「現在の法律関係に関する訴え」によって目的を達成できないことを求めています。
これは、無効等確認の訴えを、ほかの訴訟では目的を達成できない場合に認めるという考え方です。
例えば、ある行政処分が無効であることを理由に、相手方に金銭の返還を求めたい場合を考えてみましょう。
その目的が、処分の無効確認を求めなくても、民事訴訟で返還を請求することによって達成できるのであれば、無効等確認の訴えを提起することは認められない場合があります。
実際に、国税の徴収をめぐる裁判でも、処分の無効確認を求める訴えについて、金銭の返還を求める訴訟によって目的を達成できるかどうかが問題となっています。
つまり、単に無効確認の訴えのほうが便利そうだというだけでは足りません。ほかの訴訟によって目的を達成できるかどうかが重要なのです。
(3)なぜ、ほかの訴訟では目的を達成できないことが必要なのか
その理由は、裁判による救済の方法を適切に使い分けるためです。
例えば、ある処分が無効であることを前提として、金銭の返還を求めれば目的を達成できるのであれば、まずはその返還請求をする訴訟が考えられます。
それにもかかわらず、あらゆる場合に処分の無効確認を求められることにすると、必要以上に訴訟が重複したり、紛争を解決するための適切な方法が不明確になったりするおそれがあります。
そこで第36条は、ほかの訴訟によって目的を達成できない場合に限り、無効等確認の訴えを認めています。
このような性質を、法律学では「補充性」と呼びます。
第36条の補充性とは、ほかに適切な訴訟によって目的を達成できるのであれば、原則として無効等確認の訴えによる必要はない、という考え方です。
6.第36条を具体例で考えてみる
例えば、行政庁が行った処分に基づき、AがBから100万円を徴収したとします。
Bは、その処分は無効だから、徴収された100万円を返してほしいと考えています。
このとき、Bが裁判で実現したい目的は何でしょうか。
それは、処分の無効を確認してもらうこと自体なのか、それとも、徴収された100万円を返してもらうことなのか、という点を考える必要があります。
もし、民事訴訟で返還を求めることによって目的を達成できるのであれば、処分の無効確認を求める訴えを別に起こす必要はないと判断される場合があります。
一方、処分の効力そのものが現在の法律関係を左右しており、ほかの訴訟では十分な解決ができない場合には、無効等確認の訴えが問題となります。
もちろん、実際にどの訴訟が適切かは、処分の内容や当事者の関係、請求する内容などによって異なります。
ここで押さえておきたいのは、第36条は、処分が無効かどうかだけでなく、どのような訴訟によって紛争を解決するのが適切かも問題にしているということです。
7.無効等確認の訴えは、いつでも提起できるのか
ここまで読むと、取消訴訟の出訴期間が過ぎても無効等確認の訴えを提起できるのであれば、便利な制度のように思えるかもしれません。
しかし、無効等確認の訴えには、いくつかの制約があります。
第一に、処分に違法な点があるからといって、必ず無効になるわけではありません。
第二に、第36条が定める原告適格などの要件を満たす必要があります。
第三に、ほかの訴訟によって目的を達成できる場合には、補充性の要件を満たさないことがあります。
したがって、無効等確認の訴えは、出訴期間が過ぎたときに取消訴訟の代わりとして自由に使える制度ではありません。
無効等確認の訴えが認められるかどうかは、処分の瑕疵の程度や、訴えを起こす人の法律上の利益、ほかの訴訟による解決の可能性などを踏まえて判断されます。
8.行政書士試験で押さえておきたいポイント
最後に、試験対策として重要な点を整理します。
ポイント1:第3条第4項の定義
無効等確認の訴えは、処分や裁決の存否、またはその効力の有無の確認を求める訴訟です。
ポイント2:取消訴訟との違い
取消訴訟は処分などを取り消すことを求めるのに対し、無効等確認の訴えは処分などの存否や効力の有無の確認を求めます。
ポイント3:出訴期間
無効等確認の訴えには、取消訴訟と同じ出訴期間の制限はありません。ただし、無効と評価できる瑕疵があるかどうかなど、別の問題があります。
ポイント4:第36条の原告適格
処分に続く処分によって損害を受けるおそれのある者など、法律上の利益を有する者でなければなりません。
ポイント5:補充性
処分の存否や効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達成できないことが必要です。
特に、第36条では「法律上の利益」と「ほかの訴えによって目的を達成できないこと」の両方が求められています。どちらか一方だけでよいわけではありません。
まとめ
無効等確認の訴えは、行政庁の処分や裁決について、その存在や法律上の効力を確認するための訴訟です。
例えば、行政庁の許可に重大な瑕疵があり、無効であると主張できる場合や、その処分の効力が現在の法律関係に影響している場合などに問題となります。
ただし、処分に違法な点があるだけで、無効等確認の訴えが認められるわけではありません。
行政事件訴訟法第36条は、訴えを起こす人に法律上の利益などがあることに加え、ほかの訴訟によって目的を達成できないことを求めています。
無効等確認の訴えを理解するうえでは、単に「処分が無効かどうか」だけを見るのではなく、誰が、何を実現するために、なぜ無効確認を求める必要があるのかという視点を持つことが大切です。
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大野