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AIは契約当事者になれるのか?

「AIが自分で契約を結ぶ」。

少し前までは、SFのように感じる話だったかもしれません。

しかし現在では、AIが人間の指示に従って文章を作成するだけでなく、情報を収集し、相手とのやり取りを行い、条件を比較し、場合によっては一定の処理を自動的に実行する「AIエージェント」も登場しています。

そうなると、次のような疑問が出てきます。

AIが自分で契約を締結した場合、その契約の「当事者」は誰なのか?

さらに一歩進めれば、

そもそもAI自身が契約当事者になることはできるのでしょうか?

結論からいえば、現在の日本法を前提とする限り、AIそのものが契約当事者になると考えるのは難しいでしょう。

ただし、これは「AIを使って契約を結ぶことができない」という意味ではありません。

むしろ重要なのは、AIが契約に関与していても、最終的に誰が契約上の権利と義務を負うのかという問題です。

目次

契約は「文章」だけで成立するわけではない

まず、契約について考えてみましょう。

契約書という紙やPDFがあって初めて契約が成立するわけではありません。

民法522条では、契約は、契約内容を示して締結を申し入れる「申込み」に対して、相手方が「承諾」をしたときに成立するとされています。原則として、契約書などの書面を作成すること自体も契約成立の必須条件ではありません。

つまり、契約で重要なのは「どんな文章が書かれているか」だけではありません。

そこには、

  • 誰が契約するのか
  • 何について合意したのか
  • 誰が権利を持つのか
  • 誰が義務を負うのか
  • その意思表示に問題はなかったのか

といった問題があります。

そして、ここにAIの難しさがあります。

AIは「契約書を作ること」はできる

たとえば、会社の担当者がAIに、

「この条件で業務委託契約書を作って」

と指示したとします。

AIは契約書の案を作ることができます。

さらに将来的には、

  1. 相手方の情報を確認する
  2. 契約条件を整理する
  3. 契約書を作成する
  4. 相手方に送る
  5. 相手方からの修正案を確認する
  6. 条件が合えば承諾する

といった一連の作業をAIが自動的に行うことも考えられます。

では、この場合、

「AIと相手方との契約」

になるのでしょうか。

ここは慎重に考える必要があります。

「AIが契約を締結する」と「AIが契約当事者になる」は違う

この2つは似ていますが、法律的には別の問題です。

たとえば、会社の担当者がAIに、

「この条件なら契約していい」

という権限を与えていたとします。

AIがその権限に基づいて相手方と契約を締結したとしても、

AI自身が契約上の権利や義務を取得するとは限りません。

むしろ考え方としては、

AIは会社のために契約締結を行う「道具」や「仕組み」であり、契約当事者は会社である

と考える方が自然です。

民法にも、本人のために代理人が権限内で意思表示をした場合、その効果を本人に直接生じさせる「代理」の仕組みがあります。

もちろん、AIをそのまま民法上の「代理人」と評価できるかについては、別途検討が必要です。

しかし少なくとも、

AIが契約締結のプロセスに関与することと、AI自身が契約当事者になることは同じではありません。

ここが非常に重要です。

では、なぜAI自身を契約当事者にするのが難しいのか?

大きな理由の一つが、

AIには現在、法人のような独立した法的人格が認められていない

という点です。

契約当事者になれば、契約から権利や義務が発生します。

たとえばAIが、

「商品を100万円で購入する」

という契約を締結したとしましょう。

契約が成立したとして、

「では、誰が100万円を支払うのか?」

という問題が出てきます。

AIには通常、自分名義の財産がありません。

では、

「AIが契約を破った場合、誰が損害賠償をするのか?」

「AIが誤った判断をして契約してしまった場合、誰が責任を負うのか?」

「AIを停止させたら、契約上の義務はどうなるのか?」

といった問題も出てきます。

契約当事者として扱うためには、単に「契約ボタンを押せる」というだけでは足りません。

契約によって生じる権利や義務、そして責任を誰に帰属させるのか

という問題を解決しなければならないのです。

実は「AIに人格を与える」必要もない?

ここで面白い問題が出てきます。

AIが契約を自動的に締結するようになったとしても、

本当にAIに法人格のような法的人格を与える必要があるのでしょうか。

たとえば、

「AIが契約を締結した」

としても、

「AIを利用している会社が契約当事者になる」

という仕組みにすれば、契約そのものは成立させられます。

実際、AIに法的人格を与えなくても契約などの制度を機能させられるため、AIに独立した法的人格を与える必要性は乏しいという見解もあります。

これは非常に合理的な考え方です。

なぜなら、AIを新しい「人」として扱うよりも、

AIを使って意思決定・契約締結を行った人や会社に、法律上の責任を帰属させる

方が、現在の契約制度との整合性を取りやすいからです。

本当に難しいのは「AIが契約した」後

AIが契約当事者になれるかという問題は、実は入口にすぎません。

より現実的で難しい問題は、

AIが人間の意図とは違う契約を締結してしまったらどうするのか

ということです。

たとえば会社がAIに、

「この条件なら契約していい」

と指示したとします。

しかしAIが情報を誤って解釈し、本来なら100万円までしか認めていなかった契約を、150万円で締結してしまった。

このとき、

「AIが勝手にやったことだから契約は無効」

と簡単に言えるのでしょうか。

そうとは限りません。

契約では、意思表示に錯誤などの問題があった場合にどのように扱うのかという問題があります。民法にも、意思表示に関する規定が置かれています。

つまり、

AIが何を考えていたのか

だけではなく、

AIをどのように設定し、どのような権限を与え、どのような仕組みで契約を締結させていたのか

が重要になってきます。

AI時代には「誰が契約したのか」がさらに重要になる

これまで契約では、

「誰と誰が契約するのか」

は比較的明確でした。

しかしAIが契約締結に深く関与するようになると、

「誰がAIに指示したのか」

「誰がAIに権限を与えたのか」

「AIがどこまで自由に判断できたのか」

「最終的に誰が契約上の責任を負うのか」

という問題が重要になります。

契約書についても、単に条文を作るだけでは十分ではありません。

AIを利用するのであれば、

  • AIが判断できる範囲
  • 人間による承認が必要な事項
  • 契約締結の権限
  • AIによる誤判断への対応
  • 取引記録の保存
  • 事故が発生した場合の責任分担

などについて、あらかじめ整理しておく必要が出てくるでしょう。

「AIに任せる」とは、責任までAIに渡すことではない

AIは契約書を作ることができます。

契約条件を比較することもできます。

相手方とのやり取りを補助することもできます。

そして将来的には、契約締結そのものを自動化することも珍しくなくなるかもしれません。

しかし、

AIに契約の仕事を任せることと、AIに契約上の責任を負わせることは別です。

AIがどれだけ高度になったとしても、

「AIがそう判断したので」

という一言だけで、契約上の責任までAIに移るわけではありません。

だからこそ、AIを契約実務に取り入れる企業ほど、

「AIに何をさせるか」だけではなく、「最終的に誰が責任を負うのか」

を考える必要があります。

AIは契約当事者になれるのか?

現時点では、AIそのものを独立した契約当事者として扱うことには大きなハードルがあります。

一方で、AIが人間や企業のために契約締結を行うことまで否定されるわけではありません。

むしろ、これから重要になるのは、

AIが契約当事者になれるかどうかという問題よりも、AIを使って誰が、どのような権限で、どこまで契約を締結できるのか

という問題なのかもしれません。

AIが契約書を作る。

AIが相手と交渉する。

AIが契約を締結する。

そんな時代になったとしても、最後に問われるのは、

「その契約について、誰が権利を持ち、誰が義務を負い、誰が責任を取るのか」

という、契約の基本的な問いです。

AIが進化するほど、契約から「人間」がいなくなるのではありません。

むしろ、

人間がどこまでAIに権限を与え、どこから先を人間自身が引き受けるのか。

その線引きこそが、これからの契約実務において重要になっていくのではないでしょうか。

大野

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