◆「相続が始まった瞬間から、遺産は凍結される」とはどういうこと?
「親が亡くなった。すぐに銀行から預金を引き出して、葬儀費用にあてよう」
そう考えて口座に向かったら――凍結されていて引き出せない。
こんな話、意外とよく聞きます。
実は、相続が発生した瞬間から、亡くなった人(被相続人)の財産は法律上、相続人全員の「共有状態」になるため、勝手に動かすことができません。
そしてこれこそが、「相続でトラブルが起きやすい最大の理由」の一つなのです。
この記事では、次のことを法律的な根拠とともにわかりやすく解説します:
1. 相続開始の瞬間に起きる「遺産の凍結」とは?
相続は、人が亡くなった瞬間から開始されます(民法第882条)。
民法第882条(相続の開始)
相続は、被相続人の死亡によって開始する。
つまり、「今日亡くなった時点で、その人の財産は相続人に引き継がれる権利が発生する」というわけですが、実はこの時点ではまだ“誰が何を相続するか”は決まっていない状態です。
そしてこのタイミングで、
- 銀行口座は凍結
- 不動産も名義変更できない
- 有価証券も移動できない
という状態になってしまうのです。
2. 遺産は“共有状態”になるってどういうこと?
民法第898条によると、遺産は相続人全員の共有になります。
民法第898条(共同相続人の権利義務)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
つまり、被相続人の財産は相続人全員の“共同名義”のような状態になっていて、誰か一人が勝手に使うことはできません。
たとえば…
- 父が死亡し、母と子ども2人が相続人だった場合
→ 父の財産は「母1/2、子ども1/4ずつ」と法定相続分があるが、
実際の名義変更や引き出しには、3人全員の同意が必要。
これが、“凍結状態”の正体です。
3. 銀行預金も勝手に下ろせない?(法律の根拠)
金融機関は、死亡の事実を確認した時点で、故人の口座を凍結します。
これは不正な出金や相続トラブルを防ぐためです。
そして、被相続人の口座から預金を引き出すには、
- 戸籍謄本などで相続人を確定させ
- 全相続人の同意(遺産分割協議書)
- 印鑑証明付きで提出する
など、非常に手間のかかる手続きが必要です。
4. 遺言書がないとどうなる?
遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、
「誰が何を相続するか」を合意しなければなりません。
しかしこの協議――意外とスムーズにはいきません。
- 遠方に住んでいて連絡が取れない相続人がいる
- 仲が悪く、話し合いすらできない
- ひとりが反対すると全員の合意が成立しない
というように、一人でも反対すれば、何も進まなくなるのが現実です。
5. トラブルを回避するために「遺言」が必要な理由
ここで登場するのが遺言書です。
遺言書があれば、被相続人の最終的な意思として、
「誰に、何を、どれくらい相続させるか」が明確に記されています。
民法でもこう規定されています:
民法第902条(遺言による遺産分配の優先)
遺言は、法定相続よりも優先される。
つまり、遺言があれば、基本的にその内容に従って遺産を分けることができ、相続人全員の合意は不要になるのです。
▼ 遺言があるとできること
- 預金の引き出しに時間がかからない(特に公正証書遺言ならスムーズ)
- 不動産の名義変更も、単独で手続き可能
- 特定の人に多く遺すことも可能(ただし遺留分には注意)
6. まとめ:遺言は“争族”を防ぐ最も有効な手段
相続が発生すると、その瞬間から遺産は凍結され、共有状態になります。
これを解消するには、原則として相続人全員の同意が必要です。
でも、現実には全員が円満に話し合えるとは限りません。
だからこそ、遺言書を残すことが最大のトラブル回避策になるのです。
▼ 特に遺言を作成すべきケース
- 相続人が2人以上いる
- 再婚や前妻の子など、関係が複雑
- 特定の子や孫に多く遺したい
- 財産が不動産中心で分けづらい
- 事業承継・自営業をしている
このような場合は、“相続対策の第一歩”として、遺言の作成を強くおすすめします。
◆ 追伸:遺言は“まだ早い”ではなく“今こそ考える”べき
「遺言なんてまだまだ先」と思っていませんか?
でも実際、相続が“いつ”発生するかは誰にも分かりません。
だからこそ、“元気なうち”に準備することが、
家族の負担を軽減し、トラブルを防ぐ最高の思いやりになります。
遺言書の作成サポートページもご覧ください。
南本町行政書士事務所