どこかで聞いたことがある復帰的物権変動。
例えば、A(売主)とB(買主)が甲土地の売買契約を締結し、AがBの詐欺を理由に売買契約を取消した後、Bが自己に登記があることをいいことにCに甲土地を売った場合、問題を解決する際に出てくる言葉です。
この場合、AはCに所有権を主張することができるのか、という問題です。
CはBと売買契約を締結していますから、Cの保護も必要なのではないか。
いや、AはBとの売買契約を取消していますから、保護すべき。
ACどちらを保護するべきか。
まず、第三者の保護規定について、民法はどう規定しているのでしょうか?
民法第96条3項では「詐欺による意思表示の取消は、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」として、取消の遡及効を制限して第三者を保護しています(取引の安全のため)。
この考え方は、取消「前」の第三者のみに適用され、取消「後」に出現した第三者には適用されないと考えられています。
なぜなら、第三者(C)が目的物(甲土地)に関係する前に、既に詐欺を理由に取り消されている(ABの売買契約)ので、取消の遡及効がCに直接及ぶわけではないため、96条3項の趣旨が該当しないのです。
では、本件は、取消後の第三者の問題です。どう解決するべきなのでしょうか?
・復帰的物権変動説
・他人物売買説
という考え方があり、それぞれ処理の仕方が異なってきます。
・復帰的物権変動説
取消の遡及効を徹底しない考え方です。
問題解決のために、まず、AB間の売買はAの取消の意思表示によりBからAへ所有権の移転が発生する(売買によって移転した所有権が再びAの元に戻ってくる)と考えます(これが復帰的物権変動です)。
そのあとに、BからCへと所有権の移転が発生しています。
これら2つの所有権の移転(物権変動)が二重譲渡の関係に立つと考え、民法第177条により、登記の有無によってどちらに所有権を認めるかを決めることになります。
・他人物売買説
取消の遡及効を徹底する考え方です。
取消には遡及効(民法第121条)という概念があります。
すなわち、取消をすることによって、意思表示の効力は、意思表示をした時点にまでさかのぼって無効になります。
これを突き詰めると(取消の遡及効を徹底すると)、AB間の売買による所有権移転すらなかったことになります。
そこで、(BC間の売買は)他人物売買をしていると考えます。
そして、登記に公信力がないことから、取消後の第三者は、原則として、所有権を取得することができませんが、民法第94条2項の類推適用によって保護されうると考えます。
大野