SNSのDMだけで仕事を引き受けても大丈夫?契約書がなくてもトラブルは防げるのか

「InstagramのDMで仕事の依頼が来た」
「Xで知り合った人から、制作の仕事を頼まれた」
「報酬や納期についてメッセージでやり取りしたので、そのまま仕事を始めた」

このような経験がある方もいるのではないでしょうか。

SNSが仕事のきっかけになることは、今では珍しくありません。特に、イラストレーターやデザイナー、動画編集者、ライター、インフルエンサーなどは、SNSを通じて仕事を受ける機会も多いでしょう。

しかし、気になるのは、SNSのDMだけで仕事を引き受けても、法的に問題はないのかという点です。

契約書を作成していない場合、仕事を受けたことになるのか。報酬が支払われなかった場合はどうなるのか。依頼された内容が後から変わった場合、断ることはできるのか。

今回は、SNSのDMによる仕事の依頼と契約について考えてみます。

目次

1.SNSのDMだけでも契約は成立する?

結論からいうと、SNSのDMによるやり取りだけでも、契約が成立することはあります。

契約は、必ずしも紙の契約書を作成し、署名や押印をしなければ成立しないわけではありません。

例えば、次のようなやり取りがあったとします。

依頼者:「商品の紹介動画を1本、3万円で制作してもらえませんか?」

受注者:「納期は来週金曜日でよろしければ、お引き受けできます」

依頼者:「それでお願いします」

このように、仕事の内容や報酬などについて双方が合意していれば、DM上のやり取りでも契約が成立したと判断される可能性があります。

つまり、「契約書を作っていないから、契約は成立していない」というわけではありません。

一方で、DMでやり取りをしたという事実だけで、必ず契約が成立するとも限りません。依頼の内容や、双方の発言、合意に至るまでの経緯などによって判断が変わることがあります。

例えば、「一度、見積もりをお願いできますか?」というメッセージだけでは、正式に仕事を依頼したとはいえない場合もあるでしょう。

大切なのは、どのようなメッセージを交わしたか、そして、何について合意したのかという点です。

2.契約書がなくても、DMが証拠になる

SNSのDMには、仕事の依頼や条件について、双方がどのようにやり取りしたのかが残ります。

そのため、トラブルが起きた際には、DMが証拠の一つになることがあります。

例えば、次のようなケースです。

  • 依頼者が「3万円でお願いします」と伝えていた
  • 受注者が「その条件で引き受けます」と返信していた
  • 依頼者が、完成した成果物を受け取っていた
  • その後、依頼者が「報酬は1万円でいいですよね」と主張し始めた

このような場合、DMの内容は、当初どのような条件で合意していたのかを確認するための重要な資料になり得ます。

ただし、メッセージが残っていれば、必ず自分の主張が認められるというわけではありません。

やり取りの一部だけでは意味が変わってしまうこともありますし、追加の条件について別の場所で話し合っていた可能性もあります。

また、相手が「その発言は正式な発注ではなかった」と主張することも考えられます。

DMは契約書の代わりになり得る一方、やり取りが曖昧であれば、かえって双方の認識の違いが表面化することもあるのです。

3.DMで仕事を引き受けるとき、何を確認すべき?

SNSで仕事を受けること自体が問題なのではありません。

問題になりやすいのは、仕事の条件が曖昧なまま、作業を始めてしまうことです。

少なくとも、次の事項はメッセージで確認しておきたいところです。

① 何をする仕事なのか

例えば、動画制作を依頼された場合、「動画を1本作る」という条件だけで十分でしょうか。

動画の長さ、構成、使用する素材、修正の範囲などによって、必要な作業量は変わります。

イラストであれば、納品する画像の点数やサイズ、使用目的なども確認したい事項です。

「思っていたものと違う」という行き違いを防ぐためにも、何を完成させれば仕事が終わるのかを具体的にしておきましょう。

② 報酬はいくらなのか

報酬についても、曖昧なままにしないことが大切です。

「予算は相談しましょう」
「売上に応じて支払います」
「今回はお試しなので、次回から報酬をお支払いします」

このような話の場合、いつ、いくら支払われるのかが明確になっていない可能性があります。

金額だけでなく、税込みか税別か、追加作業には別途報酬が発生するのか、といった点も必要に応じて確認しましょう。

③ 納期はいつなのか

「なるべく早くお願いします」という依頼では、双方が考える期限が異なるかもしれません。

依頼者は明日までに完成すると考えている一方、受注者は1週間程度を想定していることもあり得ます。

具体的な納期を決め、必要な資料や情報をいつまでに受け取れるのかも確認しておくと安心です。

④ 修正や追加作業はどこまで対応するのか

仕事を始めてから問題になりやすいのが、当初の依頼に含まれていなかった作業です。

例えば、動画を1本制作する契約だったのに、後から「もう少し短いバージョンも作ってほしい」「別のSNS用にも編集してほしい」と追加の依頼が来たとします。

こうした追加作業を、当初の報酬に含めるのか。それとも別料金にするのか。

最初に決めておかなければ、受注者の負担ばかりが増えてしまう可能性があります。

修正回数や追加料金の扱いについても、あらかじめ認識を合わせておきましょう。

⑤ 成果物をどのように利用するのか

特に、イラスト、写真、動画、文章などの制作では、成果物の利用条件も重要です。

納品した作品をSNSに掲載するだけなのか、広告に使用するのか。別の商品に転用するのか。著作権を譲渡するのか。

仕事を引き受けたからといって、成果物をどのような目的にも自由に使ってよいとは限りません。

自分の制作物がどのように利用されるのかを確認しておくことも、トラブルを防ぐために必要です。

4.DMで合意した後に、条件を変更されたら?

例えば、報酬3万円、動画1本という条件で仕事を引き受けたとします。

ところが、納品が近づいた段階で、依頼者から次のように言われました。

「やっぱり、動画を3本作ってほしいです。報酬はそのままでお願いします」

この場合、当初の合意に含まれていない追加作業について、当然に無償で応じなければならないわけではありません。

当初の契約内容や、その後の合意、適用される法律などによって結論は変わりますが、少なくとも、依頼者が一方的に条件を変更すれば、必ずその変更に従わなければならないというものではありません。

そのため、追加の依頼があった場合には、作業内容や報酬、納期について改めて協議することが大切です。

また、条件を変更することになった場合は、その内容もDMなどの記録に残しておきましょう。

「前に話した内容だから、わざわざ書かなくてもいいだろう」と考えるかもしれません。しかし、最初の合意と変更後の条件が混在すると、後からどちらが有効なのか、何に合意したのかが分かりにくくなります。

5.フリーランスの場合、DMで取引条件を明示することはできる?

ここで知っておきたいのが、フリーランス法です。

2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」では、対象となる取引について、発注事業者に取引条件を明示する義務が定められています。

この義務は、必ずしも契約書を作成しなければならないというものではありません。法律で定められた事項を、書面や電子メール、SNSのDMなどの電磁的方法によって明示することができます。

例えば、対象となる取引では、次のような事項を明示する必要があります。

  • 発注者と受注者の名称
  • 業務委託をした日
  • 依頼する業務の内容
  • 納期や業務を実施する期日
  • 報酬の額と支払期日
  • 納品場所や作業場所など、法律で定められた事項

検査を行う場合の検査完了期日など、取引に応じて必要となる事項もあります。

なお、フリーランス法の適用対象となるかどうかは、当事者の属性や取引内容などによって異なります。

また、DMで連絡を取り合っていれば、それだけで法律上の義務をすべて果たしたことになるわけではありません。必要な事項が明示されているかどうかが重要です。

つまり、DMを使うこと自体は問題ではなく、必要な取引条件がきちんと明示されているかどうかが大切なのです。

6.SNSで知り合った相手だからこそ、確認しておきたいこと

SNSを通じた仕事では、相手のことを十分に知らないまま、依頼を受けることもあります。

フォロワー数が多いから、知り合いの紹介だから、やり取りが丁寧だからといって、必ずしも安心できるとは限りません。

反対に、SNSで知り合った相手だからといって、すべての依頼を疑う必要もありません。

大切なのは、相手の印象だけで判断するのではなく、取引条件を確認することです。

例えば、次のような場合には、特に慎重に考えた方がよいでしょう。

  • 報酬や支払時期を明確にしようとしない
  • 仕事内容が曖昧なのに、すぐに作業を始めるよう求められる
  • 契約条件を確認すると、嫌がられたり急かされたりする
  • 当初の説明と異なる条件を後から提示される
  • 高額な費用や商品購入などを、仕事を受ける条件として求められる

こうした事情があるからといって、直ちに詐欺や違法な取引と断定できるわけではありません。しかし、条件が不明確なまま仕事を始めることは、避けた方がよいでしょう。

相手との関係を壊したくないからといって、確認を遠慮する必要はありません。仕事の条件を確認することは、相手を疑う行為ではなく、お互いが安心して取引を進めるためのものです。

7.契約書を作るほどではない仕事でも、記録は残しておく

すべての仕事について、詳細な契約書を作成する必要があるとは限りません。

短期間の小さな仕事であれば、DMや電子メールで条件を確認し、その記録を保存しておく方法でも、取引を進められる場合があります。

ただし、仕事の金額が大きい場合、継続的に依頼を受ける場合、成果物の権利関係が複雑な場合などは、契約書を作成することも検討したいところです。

契約書には、報酬や納期だけでなく、修正、契約の解除、損害が生じた場合の対応、著作権の取り扱いなど、DMの短いやり取りだけでは整理しきれない事項を定めることができます。

また、DMで合意した場合も、メッセージを削除せずに保存する、必要に応じて画面を記録するなど、後から確認できる状態にしておくことが大切です。

SNSのサービスやアカウントの状況によっては、過去のやり取りを確認できなくなる可能性もあるためです。

まとめ:SNSのDMで仕事を受けるなら、合意した内容を明確に

SNSのDMだけで仕事を引き受けることは、必ずしも問題ではありません。DMでのやり取りによって契約が成立することもありますし、法律上の取引条件の明示にDMを利用できる場合もあります。

しかし、契約書がないことよりも注意したいのは、仕事の内容や報酬、納期などが曖昧なままになっていることです。

仕事を引き受ける前に、何をするのか、いくら支払われるのか、いつまでに納品するのか、追加作業や成果物の利用条件をどうするのかを確認しておきましょう。

そして、合意した内容は、後から確認できる形で残しておくことが大切です。

契約は、必ずしも立派な書面から始まるわけではありません。しかし、仕事の条件を曖昧にしたまま進めてよいということでもありません。

気軽に仕事の依頼や相談ができるSNSだからこそ、契約条件を確認することを忘れないようにしたいものです。

大野

目次