遺産相続の際、遺言書の有無は非常に重要です。遺言書が存在するのにその存在に気付かず、相続人同士で遺産分割協議を行い、合意が成立した場合、どのような影響があるのでしょうか。また、遺言書の存在を正しく把握するためには、どのような点に注意すべきでしょうか。
1. 遺言書の存在に気付かず分割協議をしてしまった場合
原則として、遺言書が優先されます。具体的には以下の通りです。
- 遺産分割協議が成立していても、後から有効な遺言書が見つかった場合は、遺言書の内容に従う必要があります。
- すでに行った遺産分割が遺言書の内容と異なる場合、相続人間で再度調整することになります。
- もし分割済みの財産がすでに第三者に移転されている場合、場合によっては返還請求が生じることもあります。
つまり、遺言書は遺産分割協議より優先されるため、協議の結果だけに頼ると後からトラブルになりやすいのです。
2. 相続人全員の合意がある場合の例外
しかし、**民法第900条の「相続人間の協議」**の規定を根拠に、次のような例外があります。
- 後から遺言書が発見された場合でも、相続人全員が遺言書よりも既に行った遺産分割協議を優先させることに同意すれば、遺産分割をやり直す必要はない。
- この場合、遺言書は存在するものの、相続人全員の意思によって効力が調整される形になります。
つまり、法的には「遺言書>協議」が原則ですが、相続人全員の合意によって例外的に「協議を優先」させることも可能です。
根拠条文・判例
根拠条文
- 民法第900条:相続人間の協議による分割は、全員の合意があれば有効とされる
- 民法第968条・970条:遺言書は相続人に優先される
判例でも、後から遺言書が発見された場合に、相続人全員が既に行った分割を維持することを合意したケースでは、協議内容が尊重されるという判断があります。
参考文献例:
- 「民法(相続関係)」岩波書店
- 最高裁判所民事判例(相続における遺言書発見後の協議尊重)
注意点
- 相続人全員が明確に合意していることが前提です。
- 合意の記録(書面化)を残さないと、後日トラブルの原因になる可能性があります。
- 遺言書の存在を確認した上で協議を行うことが、トラブル防止には最も安全です。
3. 遺言書の存在に気付くための注意点
遺言書の存在を把握するためには、以下の点に注意する必要があります。
- 法務局での自筆証書遺言保管制度の確認
2019年の改正で、自筆証書遺言を法務局に保管できるようになりました。相続開始後、法務局に閲覧請求を行うことで存在を確認できます。 - 遺言書のありそうな場所の確認
遺言書は自宅の金庫や貸金庫、書類棚などに保管されていることがあります。特に家族が普段触れない書類に注意が必要です。 - 公正証書遺言の確認
公正証書遺言の場合、公証役場に原本が保管されています。相続人が誰かに確認することで、存在を把握できます。 - 相続人同士での情報共有
遺言書の存在を知らないまま協議を進めることを防ぐため、相続開始後は、相続人間で「遺言書の有無」を確認し合うことが重要です。
4. 遺言書の存在を踏まえた安全な遺産分割協議
- 遺言書の有無を確認してから協議を行うことで、後々のトラブルを避けることができます。
- 遺言書が存在した場合は、内容に従い、分割方法を調整します。
- 相続手続きや遺言書確認に不安がある場合は、行政書士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
遺産分割協議を行う前に、遺言書の有無を確認することは必須です。見落としたまま協議を進めると、後で内容をやり直す必要が出る可能性があります。法務局や公証役場の確認、自宅での保管場所のチェック、相続人同士の情報共有を徹底して、安全な相続手続きを行いましょう。
大野