株式会社には「4倍ルール」と呼ばれる制度があります。
公開会社においては、発行可能株式総数が発行済株式総数の4倍を超えてはならないという制限のことを指します(会社法第37条第3項など)。
なぜ、このようなルールを設けているのでしょうか。
Contents
1. 具体的なイメージと背景
例えば、会社を設立する際に、100株を発行した会社があったとします。
そして、定款で発行可能株式総数を1000株に設定したとします。
【設立時の状況】
・発行済株式数:100株
・発行可能株式総数:1000株(※例)
このような設定ができるかどうかについては後で解説しますが、
単純に考えると、この会社は、あと900株を発行することができることになります。
公開会社の場合、新たに株式を発行する際は、取締役会の決議のみで発行することが可能となっています(会社法第199条第1項)。
例でいうと、900株の範囲であれば、取締役会の決議のみで追加株式を発行することが可能です。
■ 取締役による支配権操作のリスク
取締役が取締役会決議のみで発行が可能という制度を悪用すれば、「耳の痛いことばかり言う株主を排除したい」と考えたとき、支配権を強めたいと考えたとき、自分に都合の良い第三者に新株をバンバン発行することで、特定の株主の持ち株比率を意図的に下げてしまう(=希釈化)ことが可能となってしまいます。
【図1:希釈化の例】
初期株主の保有割合:100株/100株 → 100%
追加で900株発行後:100株/1000株 → 10%
このような事態は、株主の権利を損なうものであり、公平性に欠けます。そこで、法律(会社法)は「発行可能株式総数は発行済株式の4倍以内」と制限し、取締役の暴走を防ぐ仕組みを整えているのです。
■ 正しいルールに基づく数値例
では、上記の例に4倍ルールを適用するとどうなるのでしょう。
定款で定められる最大発行可能株式総数は 100 × 4 = 400株。
発行可能株式総数を定款で1000株にすることは4倍ルールを超過しており、会社法第37条違反です。
設立時に100株を発行した株式会社に、4倍ルールを適用すると、発行可能株式総数は、最大で400株ということになります。
【4倍ルールに基づく設計例】
・発行済株式数:100株
・発行可能株式総数:最大400株
・発行可能な残り株式数:300株
このように、既存株主の持株比率を不当に下げるような株式発行が制限されることで、株主保護が実現されているのです。
2. 非公開会社にはルールは適用されない
一方、非公開会社(譲渡制限会社)では、株主の入れ替わりが少なく、経営陣と株主の距離も近いため、4倍ルールの適用はありません(株主保護のルールである4倍ルールは適用されません)。社内での合意が得やすく、乱用のリスクも少ないと考えられているからです。
3. 適用される具体的なケース一覧
4倍ルールが適用されるのは、以下のようなケースです。
適用場面 | 根拠条文 | 補足 |
---|---|---|
① 公開会社の設立時 | 会社法 第37条第3項 | 最初から公開会社として設立する場合 |
② 定款変更による発行可能株式総数の増加の場合 | 第113条第3項第1号 | 既に公開会社である場合に増やす時 |
③ 非公開会社が公開会社へ移行する場合 | 第113条第3項第2号 | 上場準備などのタイミングで適用 |
④ 株式併合を行う場合 | 第180条第3項 | 株数が減少するため新たに調整が必要になる |
⑤ 新設合併・新設分割・株式移転等による公開会社の設立の場合 | 第814条第1項かっこ書き、第37条第3項 | 組織再編で新会社が誕生するケース |
4. 視覚的まとめ
【図2:4倍ルールの構造イメージ】
発行可能株式総数(最大400株)
├── 発行済株式数:100株(既に発行済)
└── 残り発行可能株式数:300株(将来的に発行可能)
この上限を超えて発行するには、定款変更が必要であり、かつ4倍ルールの制限を受けます。
【フローチャート:発行可能株式数変更時の判断】
発行可能株式数を増やしたい?
↓
定款変更が必要か?
↓
会社は公開会社か?
↓
┌─────────────┐
↓ ↓
はい いいえ
4倍ルールが適用 4倍ルールは適用されない
5. まとめ
- 4倍ルールは公開会社に適用される株主保護の制度です。
- 発行可能株式数は、発行済株式数の4倍を超えてはならない。
- 取締役会の暴走を防ぎ、株主の持株比率の不当な希釈を防止します。
- 非公開会社には適用されないが、将来的な公開を見据えて設計することも重要です。
このルールは、会社の資金調達の自由と、株主の権利保護のバランスを取る、非常に重要な制度です。
大野