「原状回復」と聞くと、賃貸住宅の退去時に部屋を元の状態に戻すイメージを思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、法律上はそれだけではありません。契約を解除したときにも「原状回復」というルールが登場します。
この記事では、一般的な原状回復の意味と、賃貸借における原状回復との違いを整理していきます。
目次
原状回復の法律上の位置づけ
原状回復は、民法に複数の条文で出てきます。代表的なのは次の2つです。
① 賃貸借における原状回復(民法621条)
賃借人は、賃貸借が終了したときは、賃借物を原状に復して賃貸人に返還しなければならない。
👉 これは賃貸住宅などの「退去時の義務」を定めたものです。
② 契約解除に伴う原状回復(民法545条)
その解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。
👉 これは「契約解除したら、互いに受け取ったものを返し合って、契約前の状態に戻す」という意味です。
つまり、原状回復は「解除の規定」にもあるし、「賃貸借の規定」にもあるのです。
契約解除における原状回復のイメージ
解除による原状回復は、少しイメージしにくいかもしれません。例で見てみましょう。
例1:売買契約を解除した場合
- AさんがBさんに10万円で商品を売る契約をしたが、Bさんが代金を払わなかった
- Aさんが契約を解除
- 原状回復義務として:
- Bさんは商品を返す
- Aさんは受け取ったお金(もし受け取っていた場合)を返す
👉 解除によって「なかったことにする」ので、互いに受け取ったものを返す必要があります。
例2:レンタル契約を解除した場合
- DVDを借りたが、契約を解除することになった
- 借りた人はDVDを返す
- お店は受け取ったレンタル料金を返す
👉 これも原状回復の一例です。
賃貸借における原状回復との違い
- 解除による原状回復(民法545条)
- 契約をなかったことにして、互いに返すべきものを返す
- 「お金」「物」など契約でやりとりしたものを対象とする
- 賃貸借の終了に伴う原状回復(民法621条)
- 借りた物件を元の状態に戻して返す
- 「部屋や建物の状態」を対象とする
👉 つまり、どちらも「元に戻す」という点では共通しますが、対象とするものが違うのです。
まとめ
「原状回復」という言葉には二つの意味があります。
- 賃貸借終了時の原状回復(民法621条)
→ 借りた物件を元の状態に戻して返す義務 - 契約解除時の原状回復(民法545条)
→ 契約を解除した場合に、互いに受け取ったものを返して契約前の状態に戻す義務
つまり、「原状回復=退去時の修繕」と思いがちですが、法律的には「解除の効果」としての原状回復の方がより一般的な意味合いなのです。
👉 この違いを理解しておくと、「原状回復」という言葉が契約書や判例に出てきたときにも混乱せずに済みます。
大野