衆議院解散後、国はどう運営されているのか―内閣の地位と総選挙後の流れをわかりやすく解説―
衆議院が解散されると、国会は事実上機能を停止し、国会議員の多くはその身分を失います。
この「政治の空白期間」に、国家は誰が、どのような根拠で運営しているのでしょうか。
特に、
- 総理大臣や国務大臣の多くは「国会議員でなければならない」はず
- しかし、解散すれば衆議院議員は全員失職する
という一見すると矛盾する状態が生じます。
この点を、憲法の規定と総選挙後の流れに沿って整理します。
衆議院解散とは「議員の地位の喪失」であって「内閣の解散」ではない
まず重要なのは、
衆議院の解散 = 国会議員(衆議員)の解散
内閣の解散ではない
という点です。
衆議院が解散されると、衆議院議員はその地位を失いますが、
内閣は自動的に総辞職するわけではありません。
むしろ、憲法は次のように規定しています。
内閣は「選挙後の最初の国会」まで職務を続ける
日本国憲法70条は、内閣が総辞職する場合として、
- 内閣不信任決議案の可決
- 衆議院解散後、最初に召集される国会の後
を挙げています。
つまり、
衆議院解散
→ 総選挙
→ 最初の国会が開かれる
→ その時点で内閣は総辞職
という流れになります。
このため、
- 解散後
- 総選挙中
- 当選者確定後、国会召集まで
の期間は、解散前の内閣がそのまま「暫定的」に職務を続行します。
これを一般に「解散後内閣」「選挙管理内閣」と呼びます。
「大臣の半数は国会議員でなければならない」規定との関係
憲法68条1項は、
国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない
と定めています。
ここで生じる疑問が、
解散したら衆議院議員は全員失職する
すると、大臣の多くは「国会議員でない者」になってしまうのでは?
という点です。
結論から言うと、これは「例外的に許容される状態」です。
理由は次のとおりです。
これは「新内閣を作る場面」ではなく「旧内閣の継続」だから
憲法68条の規定は、
新しく国務大臣を任命する場面
を想定した規定です。
しかし、衆議院解散後に起きているのは、
- 新内閣の成立ではなく
- 既存内閣の「職務継続」
にすぎません。
しかも、この期間は、
- できるだけ短期間
- 選挙管理と日常行政に限定
- 新しい政治判断は極力行わない
という「暫定政権」としての位置づけです。
このため、
憲法68条の「過半数は国会議員」の要件は、
解散後の暫定期間には厳格に適用しない
という解釈が、憲法学上も実務上も確立しています。
もしこの継続を認めないと、
- 解散した瞬間に内閣が空白になる
- 誰も国家運営ができなくなる
という、より深刻な問題が生じてしまいます。
解散後から新内閣成立までの実際の流れ
整理すると、次のような流れになります。
① 衆議院解散
- 衆議院議員は全員失職
- 内閣はそのまま存続
② 総選挙の実施
- 内閣は選挙管理内閣として事務を担当
- 原則として重要政策は控える
③ 当選者確定
④ 特別国会の召集
- 新しい衆議院が初めて集まる国会
⑤ 内閣総辞職
- 憲法70条により、ここで旧内閣は総辞職
⑥ 内閣総理大臣の指名
- 衆参両院で首班指名
- 指名された者が新総理に
⑦ 新内閣の成立
- 国務大臣を任命
- この時点で「大臣の過半数は国会議員」が厳格に適用
なぜこの制度が必要なのか
この仕組みの最大の理由は、
国家運営に「空白期間」を作らないため
です。
もし、
- 解散と同時に内閣が消滅し
- 新内閣は選挙後まで作れない
とすると、
- 外交
- 災害対応
- 行政執行
- 予算執行
がすべて停止してしまいます。
そのため日本国憲法は、
- 解散後も内閣は暫定的に存続
- 新国会成立後に改めて民意で作り直す
という「連続性」を重視した設計を採っています。
まとめ
- 衆議院解散は「内閣の解散」ではない
- 内閣は選挙後の最初の国会まで職務を続ける
- 「大臣の過半数は国会議員」規定は、新任時の原則であり、暫定継続期間には例外的に緩和される
- 総選挙後、特別国会で内閣総辞職 → 首班指名 → 新内閣成立という流れになる
一見すると矛盾に見える制度も、
「国家運営の継続性」と「民意による統制」の両立を図るための、非常に精緻な設計になっているのです。
大野