日本で「国旗損壊罪」はなぜないのか?器物損壊罪で足りるのかを考える

近年、国旗を損壊した場合の処罰について、ニュースや議論が見られるようになっています。日本では、外国の国旗や国章を損壊した場合に刑罰を定めた「外国国章損壊罪」は存在しますが、日本国旗を損壊した場合の刑法上の規定は存在しません。なぜ日本では国旗損壊罪が制定されていないのでしょうか。また、仮に規定がなくても、器物損壊罪で足りるという考え方は適切なのでしょうか。本記事では、その理由や法的背景を解説します。

目次

1. 外国国章損壊罪と日本国旗損壊

刑法第92条は次のように定めています。

「外国の国章・旗章を損壊した者は、三年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処する」

これは、外交上の信頼関係や国際秩序を保護するための規定であり、外国との関係や国家の威信を守ることが目的です。

一方、日本国旗に関しては、現行刑法には明文の規定がありません。理由としては、次のような点が考えられます。

  • 国旗は象徴的・公共的な意味を持つものの、刑事罰で保護する対象とするかどうかは慎重であるべきと考えられてきた。
  • 表現の自由との関係で、国旗の損壊行為を必ずしも犯罪化することは、憲法上の議論を呼ぶ可能性がある。
  • 国旗の損壊が直ちに重大な社会的被害や法益侵害につながるとは限らず、既存の刑法上の処罰で対応可能と考えられてきた。

2. 器物損壊罪で十分なのか?

刑法第261条では、他人の物を損壊した場合に処罰する器物損壊罪が定められています。

「他人の物を損壊した者は、三年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」

ここでポイントになるのは、「器物損壊罪は対象が『他人の物』に限られる」という点です。つまり、自宅や自分の会社の国旗を破った場合は適用されません。一方、公共の場や学校、役所に掲揚された国旗など他人の管理下にある国旗を損壊した場合は、器物損壊罪で処罰可能です。

ただし、器物損壊罪の保護法益はあくまで「物理的所有物としての財産」です。一方で、国旗損壊罪が制定されれば、国家の象徴や社会秩序といった法益を刑法上直接保護することになります。

3. 法益の違いと制定の課題

ここで整理すると、以下のような法益の違いがあります。

観点器物損壊罪国旗損壊罪(仮定)
保護対象財産・物理的所有物国家の象徴、国民の共同体意識、国家威信
適用範囲他人の物自己所有の国旗も含め得る
表現の自由との関係比較的明確争点になりやすい(政治的抗議との境界)

このため、日本では国旗損壊罪を制定する場合、単に「物理的破壊」を処罰するだけでなく、国家の象徴性をどう保護するかという議論が不可欠になります。また、憲法21条の表現の自由とのバランスも慎重に考慮されます。

4. まとめ

  • 日本には外国国章損壊罪はあるが、国旗損壊罪はない。
  • これは、国旗の象徴性と表現の自由との関係が複雑であるため。
  • 器物損壊罪で処罰可能なケースもあるが、法益は「財産保護」に限られる。
  • 仮に国旗損壊罪を作る場合は、国家の象徴性や公共性を法益として明示しつつ、表現の自由との調整が必要。

国旗は単なる布切れではなく、社会全体の象徴であるため、その取り扱いは法律上も慎重になるのです。今後議論が進めば、法益のバランスをどう取るかが焦点になるでしょう。

大野

目次