たとえば、ある作家が素晴らしい小説を書いて世間を魅了した――その矢先、殺人事件の容疑者として逮捕される。あるいは、人気漫画家が重大な薬物事件を起こしたというニュースが流れる。さて、この「作品の著作権」はどうなるのでしょうか?
結論から言えば、「著作権者が犯罪を犯したこと自体では、著作権そのものが消滅することはありません」。
著作権は「人格」ではなく「財産」
著作権には大きく分けて2つの側面があります。
著作者人格権:作品に対する名誉や同一性保持を守るための権利(譲渡不可)
著作財産権:複製や販売など、経済的な利益を得るための権利(譲渡可)
犯罪を犯したとしても、「その人が著作物を創作した」という事実は変わらず、著作権は引き続きその人に帰属します。つまり、「人としてどうか」という評価と、「作品の権利」は別次元なのです。
犯罪によって生じる2つの問題
ただし、著作権が「そのまま」機能するとは限りません。社会的・法律的にいくつかの影響が出る場合があります。
① 印税などの収入面への影響
出版社やメディアは、イメージダウンを避けるために、その作家の作品の販売を停止することがあります(いわゆる“回収騒動”)。この判断は民間の自主規制であり、著作権の消滅とは無関係です。
それでも作品の売上が止まれば、当然著作権者の収入には大打撃です。
② 財産差押え・著作権の差押・譲渡
著作権は「財産権」であるため、被害者への損害賠償や罰金、刑事罰による経済的制裁の一環として差し押さえの対象になりえます。また、服役中に著作権を誰かに譲渡することも可能です。
つまり、「権利は生きているが、本人が使えない・使わせてもらえない」状況は発生しうるのです。
「反社会的な著作物」ならどうなる?
では、犯罪そのものを美化したような著作物、または実際の被害者を傷つける内容を含んだ作品はどうでしょうか?
この場合、民事上の不法行為責任や名誉毀損・プライバシー侵害の問題が生じ、出版差し止めや損害賠償の対象となることがあります。ただし、それは著作権とは別の次元の話です。
実際の事例:あの事件、あの作品
過去には、人気漫画家が覚醒剤所持で逮捕され、その作品のアニメ放映が停止されたり、映画化の話が白紙になった例もあります。しかしその一方で、「作品そのものに罪はない」というスタンスで販売が継続された例も。
この判断は社会的コンセンサスと業界倫理、そして世論のバランスによって左右される点が大きいのです。
〇まとめ
犯罪を犯しても著作権自体は消滅しない
収入や出版活動に影響は出うるが、法律上の権利とは分離されている
財産権としての著作権は差押え・譲渡が可能
内容次第では民事責任や差止請求の対象にもなり得る
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本