はじめに:大王と天皇、何が違うの?

歴史好きなら一度は疑問に思うであろう、「大王(おおきみ)」と「天皇(てんのう)」の違い。
日本の古代史において、権力者の呼び方が「大王」から「天皇」へと変化していったのには、明確な理由と背景があります。

この記事では、呼称の違いだけでなく、その背後にある国際関係や思想の変化、そして日本という国家のアイデンティティの確立過程まで、わかりやすく解説します。

1. 大王とは?──ヤマト王権時代の「王」

「大王」とは、4世紀後半から7世紀前半にかけてのヤマト王権の首長を指す称号です。

  • 読み方は「おおきみ」
  • 古代日本での統一的な支配者(王)
  • 『古事記』『日本書紀』などにも頻繁に登場
  • 倭国(やまとの国)として、中国や朝鮮に使者を送る際にも「倭王」と表現

つまり、「大王」は国内的な最高権力者でありながら、国際的には「王」クラスと見なされていました。

2. 天皇とは?──国家と神権を融合した称号

「天皇」という称号が初めて登場したのは7世紀後半の飛鳥時代。特に**天武天皇(在位673年〜686年)**以降、正式に使われるようになります。

  • 読み方は「てんのう」
  • 天=天(神)とのつながりを持つ存在
  • 「皇」は中国における皇帝=唯一無二の君主

つまり、「天皇」はそれまでの「王」よりも格上の称号であり、神格性と国家統治の正統性を同時に備えた存在として確立されたのです。

3. なぜ「大王」から「天皇」へ変わったのか?歴史背景を解説

■ 背景①:律令国家への転換

7世紀は、日本が中国(隋・唐)をモデルとした中央集権国家「律令国家」へと移行していく時期です。
政治制度、法律、戸籍制度(班田収授法)などが導入される中で、国のトップである君主も「皇帝的存在」となる必要がありました。

■ 背景②:白村江の戦いの敗北と自立の意識

663年、倭国は朝鮮半島の白村江の戦いで唐・新羅連合軍に敗北。これにより、日本は中国への朝貢を一時的にやめ、独立国家としての色合いを強めていくようになります。

→ 中国に対して「王」ではなく、対等な「皇帝」に近い存在として振る舞う必要が生じたのです。

■ 背景③:神道との融合と神聖性の確立

天皇という称号には、「天照大神(あまてらすおおみかみ)」の子孫であるという神話的正統性が込められています。
これは、日本独自の宗教である神道と天皇制の一体化を意味し、単なる支配者ではなく、神の子孫として国を統治する存在としての役割を担うようになりました。

4. 呼称の違いが示す「日本の国づくり」の歴史

呼称時代意味合い
大王古墳時代~飛鳥時代前期倭国の支配者、地方豪族の代表
天皇飛鳥時代後期~現在律令国家の最高神聖君主、天と結びついた存在

このように、「大王」から「天皇」へと変わることは、単なる呼び方の変化ではなく、日本という国がどのように国家としての体制を整えていったかの象徴でもあります。

まとめ:大王と天皇の違いと、その変化の意味

  • 「大王」は古代ヤマト政権の国内的な支配者
  • 「天皇」は律令国家のトップであり、神の権威をもった存在
  • 背景には、中国への対抗心・律令制導入・神道との融合がある

この歴史的な流れを理解することで、現代の天皇制がどのように誕生したかをより深く知ることができます。

よくある質問(FAQ)

Q1:天皇という言葉は中国にもあるの?
A:天皇という称号は日本独自のものであり、中国では「皇帝」が用いられます。

Q2:大王という呼び方はいつまで使われたの?
A:7世紀半ばごろまでで、天武天皇以降はほぼ「天皇」に統一されています。

Q3:現在でも「大王」という言葉は使われている?
A:歴史用語としてのみ使われ、現在の天皇に対しては使用されません。

大野