令和6年の宅建試験(問10)で以下のような問題が出されたそうです。
売買契約の目的物が品質に関して契約の内容に適合しない場合において、当該契約不適合が売主及び買主のいずれの責めにも帰することができない事由によるものであるとき、履行の追完請求権、代金の減額請求権、損害賠償請求権及び契約の解除権のうち、民法の規定によれば、買主が行使することができない権利のみを掲げたものとして正しいものは次の記述のうちどれか。なお、帰責性以外の点について、権利の行使を妨げる事情はないものとする。
1履行の追完請求権、損害賠償請求権、契約の解除権
2代金の減額請求権、損害賠償請求権、契約の解除権
3履行の追完請求権、代金の減額請求権
4損害賠償請求権
さて、どうでしょう。わかりますか?
契約不適合責任についての条文や内容を理解していれば簡単に解答できる問題かと思います。
契約不適合責任において相手方に帰責性がない場合、買主が行使することができない権利はどれかという問題です。
ということは、契約不適合責任について知る必要があります。
瑕疵担保責任と契約不適合責任
現在の契約不適合責任は、民法改正前までは瑕疵担保責任として条文がおかれていました。
改正前民法第570条
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りではない。
改正前民法第566条第1項
売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
目的物に「隠れた瑕疵」があった場合において売主に責任を追及できるという条文でした。
この条文の性質については、法定責任説と契約責任説が対立しておりました。
法定責任説は瑕疵担保責任は、民法415条で規定される債務不履行責任の「特則」と考えるものです。
何が特則なのかというと、売買等においては目的物の性質(瑕疵があるかどうか)は考慮されず、目的物を引き渡すだけで債務の履行は完了する、という考え方を前提にして、契約時や引き渡し時に発見できなかった瑕疵が判明した場合には、債務不履行責任は追及できないことになります。
それでは不都合なので、買主を保護する規定が必要だ。ということで設けられたのが瑕疵担保責任だったのです。そのため、特則といわれます。
契約責任説は、完全な履行がなされたかどうかは目的物の性質(瑕疵があるかどうか)も考慮するべきで、目的物に瑕疵などがあった場合には、不完全履行であり債務不履行責任を追及できるという考え方です。
法定責任説の瑕疵担保責任では、損害賠償や解除をするのに、売主の帰責性は不要でした。
法定責任説が判例でありましたが、民法改正により瑕疵担保責任は契約不適合責任として整理され、契約責任説が採用されました。
契約不適合責任の追及方法と帰責性
民法第562条第1項
「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。」
民法第563条第1項
「前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。」
民法第564条第1項
「前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。」
つまり、契約不適合責任の追及方法としては、
・履行追完請求
・代金減額請求
・損害賠償請求
・解除
が考えられます。
そして、履行の追完請求と代金の減額請求は、売主の帰責性は不要と考えられています。
よって、「履行の追完請求権」と「代金の減額請求権」の選択肢を答えから消すことができます。
解除と損害賠償請求の帰責性
残った、解除と損害賠償請求はどうでしょう。
これについては、564条の規定からわかるように民法415条(債務不履行に基づく損害賠償の規定)と民法541条(解除の規定)の規定による請求、行使を妨げないとしています。
つまり、損害賠償や解除については一般原則で処理することになります。
そこで、民法415条と民法541条の帰責性の有無について検討すればよいのです。
まず、民法541条の解除についてですが、
「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」
と規定しています。
旧法第543条(履行不能による解除権)では、
「履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
と規定しており、契約の解除には債務者の帰責性が求められていました。
この規定は削除され、契約の解除をするのに債務者の帰責性は不要となりました。
債務者に帰責性がなくとも契約の解除ができることになります。
よって、解答から「契約の解除」を消すことができます。
問題の正解
ということで、正解は4ということになります。
消去法でいくと解けましたが、損害賠償請求をするのに帰責性は必要なのでしょうか?
民法第415条
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
条文からお分かりのように、債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。と規定していることから、
損害賠償を請求するためには債務者の帰責性が必要とされています。
以上から、契約不適合責任の場合において相手方に帰責性がない場合において、買主が行使することができない権利は、「損害賠償請求」ということになります。
なぜなら、損害賠償請求をするためには、債務者の帰責性が求められているからです。