現行の民法ルールによると詐害行為取消請求訴訟の認容判決が出ると判決の効力は債務者には及ばないことになっている。

例えば、ある不動産(価格1000万円)を債務者から受益者が購入した。この売買契約を債権者が詐害行為取消権を行使して取り消した。その場合、まず、不動産は債務者に戻り、換金されて債権者が複数いると分配となる(債権者平等の原則)。その後、受益者は結局不動産を購入できず、1000万円を払っている状態になるためこの1000万円を速やかに債務者に返還請求したいところである。しかし、実際にはこの1000万は債務者の手元にあるため、その債務者の債権者に分配される対象財産となる。そうなると、場合によっては、受益者は1000万の回収が現実的には出来ないことになる(法的には債務不履行となるため回収の請求は出来る)。

そこで新法では詐害行為取消権の効力が債務者に及ぶとした。これにより、受益者から債務者に対する1000万の返還請求をまず認め、その後、詐害行為取消権で取り消されたことによる不動産の換金を行って債権者に分配するという流れになる(新425条の2前段)。

この時点で、受益者が債務者に返せといった1000万がない場合でも価額償還請求ができるという形で受益者の保護を図った(425条の2後段)。

西本