なぜ世界の言語で発音が共通しているのか?|“あ・a・ア”の不思議をわかりやすく解説
世界には7,000以上の言語が存在するといわれています。
しかし、よく考えてみると不思議なことがあります。
- 日本語の 「あ」
- 英語の 「a(ア)」
- スペイン語の 「a(ア)」
- 韓国語の 「아(ア)」
……実はどこの言語にも「ア」に近い発音があり、
ほかにも「イ」「ウ」「エ」「オ」に相当する音が広く見られます。
なぜ、まったく違う地域の人々が、似たような発音を使っているのでしょうか?
この記事では、言語学・音声学の観点から「発音が世界的に共通している理由」を、専門的になりすぎないように、わかりやすく解説します。
1. 世界の言語に共通する音がある理由は“人間の身体構造”
最大の理由は 人間の発音器官(声帯・口・舌・喉)の構造が共通だから です。
▼ 全人類に共通する発音器官
- 声帯の位置
- 舌の動き
- 口の形
- 口蓋(こうがい)の構造
これらは人種によって大きく変わることはなく、
空気の振動をどう変えるか という仕組みはほぼ同じです。
そのため、発音しやすい音・出しにくい音が全人類で共通しています。
▼「ア」は最も自然で発音しやすい音のひとつ
口を大きく開くだけで出せる音のため、
- 子供が最初に発する母音
- 世界の多くの言語に共通
- 発声に力がいらない
こういった特徴があります。
つまり「ア」という音は 人間の構造的に必然的に生まれる音 なのです。
2. 多くの言語で母音は似通う仕組み
世界の言語の多くは 共通の母音セット を持っています。
▼ 母音が似る理由
- 発音しやすい音が自然に残るため
- 聞き分けやすい音が選ばれていくため
- 言語が進化する過程で“安定しやすい音”が生き残ったため
特に母音は、音声学的に次のような位置関係で説明されます。
- /a/(ア) → 口を大きく開く
- /i/(イ) → 舌を前に上げる
- /u/(ウ) → 唇をすぼめる
これらは 発音のポジションが極端で、互いに聞き分けやすい という性質があります。
だからこそ、世界の多くの言語がこれらの音を持っているのです。
3. 子どもの言語発達が、共通音を“維持”してきた
赤ちゃんは世界中で、
- 「アー」
- 「ウー」
- 「イー」
などの音を自然と発します。
これは言語を習得する前の、発声練習の初期段階(喃語) です。
これは国籍・文化に関わらずほぼ共通で、
- 発音しやすい音 → 早く習得
- 出しにくい音 → 遅れて習得、言語によっては淘汰
というしくみになっています。
つまり、
赤ちゃんが発しやすい音=世界の言語に共通しやすい音
というわけです。
4. 歴史的に全く関係ない言語でも似た発音を持つ理由
言語は大きく分けても、
- 日本語
- 英語(ゲルマン語)
- スペイン語(ラテン語)
- 中国語(漢語)
- アラビア語
- アフリカの多数の言語
など、互いに系統が異なります。
それでも似た発音を持つのは、
同じ人間が発声し、聞き取りやすい音が普遍的だから です。
また、歴史的な交流があった地域同士では、
発音が互いに影響し、より似ていくこともあります。
5. 逆に共通していない音もある
一方で、全く共通していない音もあります。
- 日本語にない「th」音(英語)
- クリック音(アフリカのコイサン語族)
- 喉の奥をこする「ḥ」音(アラビア語)
- 巻き舌 r(多くの言語)
これらは 発音が難しい/特定の文化で残った ことが理由です。
つまり、必ずしもすべての音が共通しているわけではありません。
まとめ:言語の発音が共通するのは“人間が同じ身体を持つから”
世界の言語に「ア・イ・ウ…」のような共通する音が多い理由は、
- 人間の身体構造が同じだから
- 発音しやすい・聞き取りやすい音が自然に残ったから
- 赤ちゃんの発声が世界共通で、その音が言語に反映されたから
- 歴史の中で安定しやすい母音が普遍化したから
という科学的・音声学的な背景にあります。
つまり、
言語は違っても、人間は同じ生き物であるため、似た音が生まれるのは自然なこと
なのです。
大野