「AIが書いた中傷、責任は誰にあるのか」生成AIと名誉毀損の法的境界線
ある日、AIが自動生成した文章に自分の名前が登場していた。
そこには「過去に不正をした」と書かれている――もちろん事実ではない。
では、この“嘘”を誰が責任を取るのか?
投稿者? AI開発者?
それともAI自身?
私たちは便利さの裏に、“言葉の刃”をAIに預け始めている。
名誉毀損という古くからある罪が、いま再び問い直されているのだ。
第一章 名誉毀損の基本構造
・刑法230条:「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は処罰」
・民法709条:「不法行為として損害賠償請求が可能」
・つまり、“事実を伝える自由”と“人格権の保護”のせめぎ合い。
・SNS時代には“拡散”という新しいリスクが追加されている。
第二章 AIが書いた場合の法的主体は誰?
・現行法上、AIは「権利能力なき存在」。したがって責任主体にならない。
・生成結果をネットに投稿した人間(ユーザー)が、
→名誉毀損の主体(行為者)とみなされるのが基本。
・ただし、AIが自律的に学習して虚偽情報を出力した場合、
→開発者・提供者の注意義務違反(民法415条または709条)が議論される。
🧩例:
AIが特定人物を犯罪者と誤認→ユーザーがSNSで拡散→その投稿者が一次的責任者。
ただしAIが誤情報を“高確率で出す設計”であれば、開発側の過失も問題に。
第三章 「AI発言」と「人間発言」の区別
・名誉毀損の成立要件には「人が人に向けた意思表現」が必要。
・AIの出力は“意思”ではなく“機械的処理”。
→つまり、AI単独では名誉毀損罪は成立しない。
・しかし、“AIの発言を使って誹謗中傷する人”には責任が生じる。
⚖️イメージ
AI:刃物そのもの
ユーザー:刃物を振るう人
→ 法的責任は「使用者」に帰属する。
第四章 開発者の「予見義務」とプラットフォームの責任
・AIが不法行為を助長する可能性を知りながら放置すれば、
→**過失責任(709条)の可能性。
・現実には利用規約・免責条項によって責任を限定している。
・ただし、AIが虚偽情報を大量生成・拡散し被害を拡大させた場合、
→被害者は「共同不法行為」**を主張する余地も。
第五章 “AI誹謗中傷”時代に個人ができる対策
生成AIの出力をそのまま転載しない
引用元・出典を明示
誤情報が出た場合は迅速に削除・訂正
名誉を害された場合はスクリーンショットで証拠保存し、弁護士・行政書士に相談
第六章 AIと「言葉の責任」
AIはただのツール――しかし、ツールが“言葉”を持った瞬間に、
それを使う人間の倫理が試される。
生成AIがどれだけ進化しても、
“名誉”という人間固有の価値だけは代替できない。
AI社会とは、つまり人間がもう一度「言葉の意味」を考える時代なのだ。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本