インターネット上で誹謗中傷や名誉毀損といった被害を受けたとき、「相手を特定したい」「損害賠償を請求したい」と思ったことはありませんか?
そんなときに使えるのが**「プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)」**です。
この記事では、特に**「発信者情報の開示請求」**に焦点をあてて、その要件、手続き、利用場面、注意点などをわかりやすく解説します。
Contents
プロバイダ責任制限法とは?その目的と背景
まずは基本から押さえましょう。
■ プロバイダとは?
ここでいう「プロバイダ」とは、インターネット上で情報を発信・伝達するサービスを提供する事業者のこと。
プロバイダ責任制限法第2条第3号
この法律において「特定電気通信役務提供者」とは、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務を提供する者をいう。
具体的には、
- インターネット接続業者(ISP)
- SNS運営会社(X(旧Twitter)、Instagram など)
- サーバー運営会社(レンタルサーバー会社 など)
が含まれます。
■ プロバイダ責任制限法の目的
この法律は、次の2つをバランスよく実現するために制定されました。
- プロバイダの責任を不当に重くしない(表現の自由保護)
- 被害者が発信者を特定できるようにする(権利救済)
発信者情報開示請求とは?
インターネット上の違法・有害情報の発信者(例:匿名アカウント)を特定するために、プロバイダなどに対してIPアドレスや氏名、メールアドレスなどの情報を開示するよう求める手続きです。
発信者情報の開示請求が認められる要件【2つの柱】
プロバイダ責任制限法第4条に基づき、以下の2つの要件を満たす必要があります。
① 権利が侵害されたことが明らかであること
開示請求をするには、あなたの権利(名誉権、プライバシー権、著作権など)が侵害されていることが明らかでなければなりません。
たとえば、以下のような投稿は該当します。
- 「◯◯は犯罪者だ」といった虚偽の書き込み(名誉毀損)
- 住所や電話番号を晒す(プライバシー侵害)
- 許可なく写真や動画をアップ(肖像権・著作権侵害)
裁判では、どの権利がどのように侵害されたかを、証拠に基づいて説明する必要があります。
② 発信者情報を得る正当な理由があること
被害者が損害賠償や差止請求などの法的措置をとるために必要な情報であることが求められます。
つまり、ただ「気に入らないから特定したい」という理由では認められません。
開示請求できる情報とは?【対象情報一覧】
発信者情報として開示を求めることができるのは、以下のような情報です。
- IPアドレス(通信記録)
- タイムスタンプ(日時)
- メールアドレス
- 氏名・住所(プロバイダによって異なる)
- 電話番号
- 登録時の契約情報
ただし、**通信記録の保存期間は短い(数ヶ月以内)**ため、早期対応が重要です。
ただ、開示請求には裁判所(仮処分・発信者情報開示命令)を挟む必要がある
「接続プロバイダが契約者情報を“持っている”のに、すぐ渡せない理由」
ポイント | 内容 | 根拠・実務 |
---|---|---|
① 通信の秘密と個人情報保護 | 接続プロバイダは電気通信事業者なので、利用者の通信記録・契約者情報を原則として第三者に渡せない。「通信の秘密」を漏らすと刑事罰のリスク。 | 電気通信事業法4条・179条 |
② プロバイダ責任制限法4条の“任意開示”条項 | 法律上、ISPは要件を満たせば任意で開示できるが、要件の見極めを誤ると逆にプライバシー侵害で損害賠償責任を負う。 → ほぼすべてのISPは「裁判所の判断がないと開示しない」という社内ルールを採用。 | 実務解説・判例多数 |
③ 裁判所が開示を命じる仕組み | 〈旧来〉仮処分や本案訴訟でISPに対して開示命令を取得。 〈改正後〉2022年10月施行の**発信者情報開示命令(非訟手続)**を使えば、SNS側とISP側を“1つの申し立て”で処理できるが、裁判所の審査が入る点は同じ。 | 改正法の概要 |
開示請求の流れ【簡略版】
- 証拠の保全(スクリーンショット・URL・ログなど)
- 送信防止措置の申出(任意)
- 発信者情報開示請求の申立て(SNS/ISP)
- 裁判所による判断(仮処分または訴訟)
- 開示命令が出ればプロバイダが情報を提供
どんな場面で使える?開示請求の利用例
- 匿名アカウントからの誹謗中傷に対して慰謝料請求をしたい
- デマ情報を流されたので発信者を特定したい
- 無断転載された写真の投稿者に削除と損害賠償を請求したい
✅ 図解:発信者情報開示請求の要件【2要件のイメージ図】
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│ 発信者情報開示請求が認められるには? │
├────────────────────────┤
│① 権利侵害が明らかであること │
│ └ 名誉毀損・プライバシー侵害・著作権侵害など│
│ │
│② 正当な理由があること │
│ └ 損害賠償や差止など法的措置のために必要 │
└────────────────────────┘
↑ この2つを満たす必要があります
🔄 フローチャート:発信者情報開示請求の流れ
▼ Step 1:証拠の確保
・投稿内容のスクリーンショット
・URL・日時・IPログなど
↓
▼ Step 2:任意の送信防止措置(プロバイダに削除申出)
※被害を軽減するために利用可能
↓
▼ Step 3:発信者情報の開示請求を行う
・コンテンツプロバイダ(例:X、5chなど)に対して仮処分等(裁判所へ)
↓
▼ Step 4:情報が保管されている接続プロバイダに対し開示請求
・発信者の契約情報を取得するため(裁判所へ)
↓
▼ Step 5:裁判所の判断(仮処分 or 本案訴訟)
↓
▼ Step 6:開示命令 → 発信者情報の取得
↓
▼ Step 7:損害賠償請求・刑事告訴など次のステップへ
まとめ:開示請求は正当な権利の行使です
プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求は、インターネット社会で被害者が泣き寝入りしないための重要な制度です。
一方で、法律の要件や証拠の確保、専門的な手続きが必要なため、弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
大野