キャッシュレス決済は便利なはずなのに、なぜ撤退が相次ぐのか?
ここ数年、スマホ一つで買い物ができる「キャッシュレス決済サービス」は急速に広まりました。
PayPay、楽天ペイ、d払い、au PAYなど、さまざまな企業が参入し、「現金を使わない社会」が現実味を帯びてきた一方で、キャッシュレス決済から撤退する企業も増えています。
例えば、NTTドコモは「d払いミニアプリ」の一部を終了、メルカリ傘下のメルペイもQRコード決済の展開を縮小。なぜ、このような“便利なサービス”から企業が手を引くのでしょうか?
この記事では、
- そもそもキャッシュレス決済サービスとは何か
- なぜ企業はそれを導入したのか
- そして、なぜ撤退が相次いでいるのか
を、解説します。
キャッシュレス決済サービスとは?【簡単に解説】
キャッシュレス決済とは、現金を使わずに商品やサービスの支払いができる仕組みのこと。
代表的なものは以下の通り:
- QRコード決済(PayPay、LINE Payなど)
- 電子マネー(Suica、楽天Edyなど)
- クレジットカード・デビットカード
- スマホ決済アプリ(Apple Pay、Google Pay など)
例:コンビニでの買い物
現金を使う代わりに、スマホのQRコードをレジでピッとかざすだけ。これで支払い完了。財布を持ち歩く必要すらありません。
なぜ企業はキャッシュレス決済に参入したのか?
理由は主に3つあります。
① 成長市場への参入
キャッシュレス市場は急拡大中。経済産業省によると、日本のキャッシュレス決済比率は2022年で36.0%。今後も伸びると期待され、多くの企業が「今参入しないと乗り遅れる」と考えました。
② 自社エコシステムの構築
楽天は楽天ペイを、メルカリはメルペイを提供することで、自社サービス内でお金が回る仕組みを目指しました。
例:
楽天市場で買い物 → 楽天カードで決済 → 楽天ポイントがたまる → 楽天ペイで街中でも使える
という“循環”をつくる戦略です。
③ 顧客データの収集
キャッシュレス決済を通じて、
- いつ、どこで、何を買ったのか
- どのくらいの頻度で使っているか
といったユーザーの行動データを取得できます。
これは、マーケティングにとって非常に重要な資産です。
それなのに、なぜキャッシュレス決済から撤退する企業が多いのか?
ここが多くのユーザーが疑問に思うポイントでしょう。
撤退の主な理由は以下の通りです。
理由①:過剰な競争と価格破壊
かつての「〇〇ペイ戦国時代」では、各社が還元合戦を展開。
「今なら20%ポイント還元!」というキャンペーンに覚えがある人も多いでしょう。
しかしこれは、企業側の赤字覚悟の投資。一時的には利用者が増えても、利益に結びつかないケースが多かったのです。
理由②:インフラ維持コストが重すぎる
決済システムを維持するには、以下のようなコストがかかります。
- セキュリティ対策
- システムの運用・保守
- 不正利用やトラブル対応のカスタマーサポート
- 加盟店の獲得・管理
想像以上にランニングコストが高く、「決済サービス単体では儲からない」企業が多かったのです。
理由③:利用者が定着しない
「キャンペーン目当て」で使っていたユーザーが、還元終了後は他のサービスに移行。
たとえば、PayPayに10%還元があればそっちに流れ、楽天ペイが20%になればまたそちらへ…。
ユーザーの“ロイヤリティ”が低く、企業側が想定したような長期的リターンが得られなかったのです。
理由④:本業に集中するための戦略転換
本業の成長が見込める、もしくは厳しくなってきた企業ほど、「周辺事業の整理」を始めています。
たとえばメルカリは、メルペイよりもフリマ事業と連携した与信・後払いの強化に舵を切りました。
キャッシュレス決済の未来はどうなる?
一部の企業が撤退する一方で、本気で勝ち残りを狙う企業もいます。
- PayPay はソフトバンクグループの戦略中核で、事業者向けサービス拡充に注力。
- 楽天ペイ は楽天経済圏との統合を深め、ユーザーの囲い込みに成功。
つまり、今後は「何でもかんでも参入する時代」から、「選ばれた少数のプレイヤーが支配する時代」へと移行していくと考えられます。
ユーザーとしてどう付き合うべきか?
- 自分のよく使うサービスと連携した決済手段を選ぶ(楽天市場→楽天ペイなど)
- キャンペーンには乗りつつも、依存しすぎない
- セキュリティと使いやすさを基準に選ぶ
こうしたポイントを意識すれば、キャッシュレス決済の恩恵を受けながら賢く使い分けることができます。
まとめ:キャッシュレス決済撤退の裏にある「ビジネスのリアル」
キャッシュレス決済は今後も進化を続けますが、それは決して「みんなが儲かるサービス」ではありません。
企業にとってはコストとリスクを伴う挑戦であり、「続ける価値がある」と判断した企業だけが残っていく世界です。
私たちユーザーも、その背景を理解した上で、賢く・安全にキャッシュレス社会と向き合っていくことが大切です。
大野