私たちが温泉に浸かるとき、多くの方は「源泉から湧き出たお湯」が浴槽に注がれている様子に注目します。ですが、そのお湯は入浴に使われた後、どのような経路をたどっているのでしょうか。
1. 温泉水の性質と注意点
温泉はただの地下水ではなく、地下の地質によって溶け込んだ成分(硫黄、ナトリウム、鉄分など)を含んでいます。そのため排水する際には、生活排水とは違った配慮が必要になる場合があります。特に硫化水素を含む強酸性・強アルカリ性の温泉は、そのまま自然に流すと河川の水質や生態系に影響を与える可能性があります。
2. 排水の主な処理方法
(1) 浄化槽や下水道による処理
多くの温泉地では、入浴後に使われた温泉水を生活排水と同じように下水道や浄化槽に流し込みます。ここで物理的・生物学的処理を受けた後、最終的には河川や海に放流されます。
ただし温泉水の成分によっては処理施設に負担をかける場合もあるため、下水道事業者が「温泉排水の受け入れ基準」を設けている地域もあります。
(2) 中和・希釈を行ってから放流
酸性泉や硫黄泉など強い性質を持つ温泉では、そのまま流すと環境に負荷を与えるため、中和剤(石灰など)を加えたり、地下水や川の水で希釈してから放流するケースもあります。特に有名な酸性泉の温泉地では、中和処理施設が設置されていることがあります。
(3) 再利用(暖房や融雪)
一部の温泉地では、使用後の温泉水をそのまま捨てずに二次利用する取り組みも行われています。たとえば冬の雪国では、道路の融雪や建物の暖房に利用される例があります。こうすることで温泉資源を有効活用し、環境負荷も軽減できます。
3. 「そのまま自然へ」の場合もある
昔ながらの温泉地や規模の小さい浴場では、使い終えた温泉をそのまま川や沢に流すこともあります。源泉かけ流しの湯量が豊富な地域では珍しくありません。ただし近年は環境規制が厳しくなり、自然放流が認められない場合も増えています。
4. まとめ
温泉の排水は大きく分けて
- 下水道や浄化槽を通す
- 中和や希釈をしてから放流
- 再利用して有効活用
- 規制が緩やかな地域ではそのまま自然へ
といった方法で処理されています。
つまり「温泉=自然から湧くお湯」ではあるものの、利用後は必ずしも自然にそのまま戻るわけではなく、地域の環境や規制、温泉の成分によって処理の仕方が異なるのです。
大野