契約は当事者がよければ何を書いてもいいの?
―「自由」の中に潜む落とし穴―
契約書を前にしたとき、こんな言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
「契約って、当事者が納得してれば何を書いてもいいんでしょ?」
たしかに、日本の民法は「契約自由の原則」を掲げており、契約の内容や方法は基本的に自由です。極論すれば「リンゴ1個と車を交換する」契約も、理論上は成立します。けれども、そこにはいくつか見落とされがちなルールとリスクが存在します。
■ 契約自由の原則とは?
契約自由の原則には主に以下の3つの意味があります。
契約を結ぶかどうかは自由(契約締結の自由)
誰と契約するかも自由(相手方選択の自由)
契約の内容も当事者の自由(内容決定の自由)
これだけ聞くと、「本当に何を書いてもいいのか!」と思えてしまうかもしれません。しかし、それは**“制限付きの自由”**なのです。
■ 書いてはいけない内容とは?
次のような内容は、たとえ当事者同士が合意していたとしても法的には無効になります。
公序良俗に反する内容(例:暴力団と利益供与契約)
一方的に消費者の権利を制限する内容(例:返品・損害賠償を一切認めない契約)
法令で禁止されている行為(例:違法就労を前提とする契約)
これらに該当する場合、契約そのものが無効と判断される可能性があるため、あとから「ちゃんと書いてあったのに…」と言っても効力が認められないのです。
■ 契約書が「完全な盾」になるとは限らない
「トラブルを避けるために契約書を交わす」というのは確かに正解です。しかし、「契約書さえあれば何をしても守られる」と考えるのは危険です。
曖昧な文言
実態に合わない条項
一方的な内容
こうした契約書は、かえって裁判で不利に働くこともあります。
また、契約書に記載されていない内容でも、取引の経緯や慣習から「黙示的に合意していた」と認定されるケースもあります。つまり、書いてあることだけが全てではないのです。
■ ビジネスで特に注意すべき例
業務委託契約で「成果が出なければ報酬は支払わない」と書いたが、業務内容に成果の定義がなかった
労働契約で「残業代込みの固定給」としていたが、時間外労働が過大だった
フリーランスとの契約で「著作権はすべて譲渡」としたが、目的外利用が含まれていた
いずれも、契約書に問題があったことで紛争につながった例です。
■ まとめ:契約は「自由」だけれど「責任」も伴う
契約は、あくまで「私たちの合意を形にしたもの」です。だからこそ自由度は高いのですが、その分、法律・実務・相場観を踏まえた設計力が必要になります。
一度サインをすれば、「そんなつもりじゃなかった」は通用しません。そして、契約が問題を解決してくれるのではなく、契約の“質”が問題を回避してくれるのです。
🎯契約を見直すタイミングは“今”
なんとなく過去の契約書を使い回していませんか?
形式的にサインしていませんか?
「相手と揉めないだろう」と甘く見ていませんか?
一度立ち止まり、専門家と一緒に見直してみることで、大きなリスクを未然に防ぐことができます。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本