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芸能人の不祥事報道で使われる「メンバー」「元メンバー」という呼称──その背景と意図を考察する

芸能人が不祥事を起こした際、ニュース報道などで「○○グループの○○メンバー」あるいは「元メンバー」といった呼称が使われるのを見たことがある方は多いのではないでしょうか。

これはいつから始まり、なぜ「タレント」「歌手」「俳優」といった職業肩書ではなく「メンバー」と呼ばれるようになったのでしょうか? 今回はその背景を探りつつ、社会的・メディア的な意図について考察してみたいと思います。

目次

「メンバー」呼称の始まりは1999年のSMAP事件?

この表現が広く注目されたのは1999年に起きた、元SMAPの稲垣吾郎さんによる交通トラブル事件が最初だと言われています。報道各社は「SMAPの稲垣メンバー」という聞き慣れない呼び方を使用し、視聴者の間でも「なぜ“メンバー”?」と話題になりました。

以降、不祥事や事件を起こしたアイドル・アーティスト・スポーツ選手などが報じられる際、同様に「○○メンバー」という呼び方が一般的になっていきました。

なぜ「メンバー」と表現されるのか?3つの理由

では、なぜこのような呼称が用いられるのでしょうか。主に以下のような理由があると考えられます。

容疑者と呼べない場合の“中立的”な表現

「容疑者」という表現は、逮捕された場合に限定されます。一方で、任意の事情聴取や書類送検のみの場合、「容疑者」と断定してしまうと名誉毀損にあたるおそれがあります。そこで、報道機関は法的責任を回避するために「メンバー」という表現を使うようになったのです。

所属グループを強調しつつ、職業名を避けるため

たとえば「俳優」や「タレント」と表記してしまうと、視聴者の中には「その仕事で今も活動しているのか?」という疑問を持つ場合があります。「メンバー」であれば、特定の活動や肩書に結びつけず、単に“どのグループの人間か”を示すことで、説明的な役割を果たします。

事務所やメディアの“温情”や“忖度”

大手事務所に所属している場合、不祥事があっても完全に“切り捨てる”とは限らず、復帰の余地を残したいという事務所側の意図もあるとされます。「メンバー」という表現は、あくまで中立的で否定的な印象を避けることができるため、将来的な復帰を見据えた“配慮”と見ることもできます。

「元メンバー」となるタイミングはいつ?

事件の重大性やグループとの契約状況によって、「メンバー」から「元メンバー」に切り替えられるタイミングがあります。これも報道機関によって判断基準は異なりますが、以下のようなパターンが多く見られます。

  • 事務所が契約解除を発表したとき
  • 本人がグループ脱退を発表したとき
  • 警察が逮捕に踏み切ったとき

このように、「元メンバー」という表記もまた、社会的に中立性を保つとともに、状況をわかりやすく伝えるための工夫なのです。

まとめ:「メンバー」という呼称は、曖昧さの中の“配慮”

不祥事を起こした芸能人に対して「○○メンバー」という呼称が用いられるようになった背景には、報道の中立性・法的リスク回避・事務所や世論への配慮といったさまざまな要素が絡み合っています。

こうした言葉の選び方一つにも、メディアと芸能界、さらには社会全体のバランス感覚や忖度、倫理観がにじみ出ているのかもしれません。

大野

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