遺留分侵害請求の具体例と請求手順~金額計算と手続きの流れ~
遺言がある場合でも、遺留分が侵害されていれば相続人は「遺留分侵害請求」を行えます。しかし、どのくらい請求できるのか、どの手順で進めるのか、実際の計算例を使って理解することが大切です。
目次
1. 遺留分侵害額の計算例
例1:シンプルなケース
- 被相続人:父
- 相続人:配偶者(母)、子2人(長男・次男)
- 財産総額:1,200万円
- 遺言:全財産を長男に遺贈
ステップ1:法定相続分を確認
- 配偶者:1/2 → 600万円
- 長男:1/4 → 300万円
- 次男:1/4 → 300万円
ステップ2:遺留分の割合を確認
- 配偶者:法定相続分の1/2 → 600万円 × 1/2 = 300万円
- 子:法定相続分の1/2 → 300万円 × 1/2 = 150万円(1人あたり)
ステップ3:侵害額の計算
- 遺言により長男に全額遺贈 → 配偶者300万円、次男150万円が侵害されている
- これが遺留分侵害額です
例2:生前贈与を含む場合
- 被相続人が生前に次男に100万円を贈与していた
- 遺留分計算の持ち戻しの対象 → 遺産に加算して再計算
- 財産総額:1,200万円 + 生前贈与100万円 = 1,300万円
- 遺留分(次男):1,300 × 1/4 × 1/2 = 162.5万円
生前贈与を考慮すると、請求可能額が変動する点に注意が必要です。
2. 遺留分侵害請求の手順
遺留分侵害請求は、まず話し合いで始めるのが基本です。
ステップ1:遺留分侵害額を計算
- 遺言や生前贈与を確認し、自分の遺留分がどれくらいか計算します
ステップ2:請求書(内容証明)を送付
- 「遺留分侵害額請求書」を作成し、相手に内容証明郵便で送ります
- 文面には「遺留分侵害の事実」「請求金額」「支払期限」を明確に記載
ステップ3:交渉・和解
- 相手と話し合い、金銭での清算方法や分割払いを協議します
- 合意できれば、合意書を作成して後のトラブルを防ぎます
ステップ4:裁判手続き
- 話し合いで解決できなければ、調停(家庭裁判所)または訴訟で請求します
- 裁判であれば、遺言・贈与の証拠や財産目録を提出し、金額を主張します
3. 遺留分請求の注意点
- 請求期限に注意
- 相続開始と侵害を知った日から1年
- 相続開始から10年で消滅
- 遺言の効力との関係
- 遺言は原則尊重されますが、遺留分侵害請求により一部修正される可能性があります
- 生前贈与や債務も考慮
- 贈与の有無、相続財産の負債なども正確に計算する必要があります
まとめ
遺留分侵害請求は、遺言の内容に従うだけでは守られない相続人の権利を保障する制度です。
- 計算が複雑:遺言・生前贈与・債務を含めた計算が必要
- 手続きの順序:話し合い → 内容証明 → 調停・裁判
- 期限管理が重要:期限を逃すと権利が消滅
金銭での請求が原則ですが、争いを避けるために、早めの確認と専門家への相談が大切です。
大野