「原本・正本・謄本」という言葉、日常生活ではあまり馴染みがないかもしれません。
ですが、契約書や登記簿、裁判の判決文など、法的に重要な場面で頻繁に登場します。
この記事では、それぞれがどんなものなのか、どのような場面で必要になるのか、そしてなぜ区別されているのかを、具体例とともに解説します。
1.原本とは
**原本(げんぽん)**とは、最初に作成された「オリジナル」の文書です。
- 契約書なら、当事者が署名・押印した最初の紙の文書
- 裁判の判決書なら、裁判所に備え付けられる元の文書
- 不動産登記簿なら、法務局に保存されている登記記録
つまり「元データ」や「マスター」にあたるものです。
具体例
- A社とB社が契約を結んだ際に署名・押印した契約書。これが契約書の原本です。
- 法務局の登記官が管理する「不動産登記簿データ」。これが登記の原本です。
なぜ必要か?
原本は「真正性」を担保するものだからです。改ざんやコピーではない、最初の「本物」があることで、信頼性が保たれます。
2.正本とは
**正本(せいほん)**は、原本に基づいて作られた「正式な写し」で、原本と同じ効力を持つものです。
裁判や行政手続きでは、原本そのものを外部に出すことはありません。代わりに「正本」を交付し、法的効力を持たせます。
具体例
- 裁判で判決が出ると、裁判所が当事者に渡すのは「判決正本」。これを持って強制執行が可能です。
- 行政文書の一部でも、交付用として「正本」が作られることがあります。
なぜ必要か?
原本を持ち出すと管理ができなくなるため、外部に渡す用として「正本」が用意されています。
正本には「原本と同じ効力」があると法律で定められているので、法的手続きに使えます。
3.謄本とは
**謄本(とうほん)**は、原本の内容を「そのまま全て写したもの」です。
正本との違いは、「効力の有無」にあります。謄本はあくまで「内容を確認するための写し」であり、正本のように直接の執行力はありません。
具体例
- 不動産登記簿謄本 → 土地や建物の所有者や権利関係を証明するために法務局で取得する。
- 戸籍謄本 → 戸籍の内容を全て写したもの。本人確認や相続手続きに利用される。
なぜ必要か?
関係者や第三者が「原本の内容を確認する」必要がある場面は多いですが、原本を渡すことはできません。そこで、原本のコピーとして「謄本」を発行する仕組みになっています。
4.正本と謄本の違い
まとめると、次のような違いがあります。
種類 | 原本との関係 | 法的効力 | 使われる場面 |
---|---|---|---|
原本 | オリジナル | 最高の証明力 | 契約書、判決文、登記簿 |
正本 | 原本と同じ効力を持つ写し | あり | 判決正本、行政処分書 |
謄本 | 原本の内容を忠実に写したもの | なし(証明用) | 戸籍謄本、不動産登記簿謄本 |
5.日常生活での身近な例
- 戸籍謄本 → 就職、結婚、相続などで必要。役所から交付される。
- 不動産登記簿謄本 → 住宅ローンや不動産売買の際に金融機関や不動産会社に提出。
- 判決正本 → 裁判で勝った後、相手が支払わない場合に差押え手続きを行うために使用。
これらの例を見ても分かるように、原本は外に出ず、正本や謄本が外部で使われる仕組みになっています。
6.なぜ区別されているのか?
原本を一切外に出さず、内部で厳格に管理することで「改ざん・紛失のリスク」を防ぎます。
一方、外部で必要とされる場合は「正本(効力あり)」や「謄本(内容確認用)」を交付することで、法律上の安全性と利便性を両立させているのです。
7.正本と謄本はどうやって見分ける?見本イメージで解説
契約や裁判、役所の手続きで出てくる「正本」と「謄本」。
どちらも「原本ではない写し」ですが、効力や用途が違います。
では、実際に手にしたとき どうやって見分ければいいのか?
この記事では、書類の見本イメージをもとに分かりやすく解説します。
8.正本の見分け方
正本は、原本と同じ効力を持つ正式な写しです。
特徴
- 書類の表紙や冒頭に 「判決正本」「決定正本」 などと明記されている
- 裁判所や行政機関から交付される場合が多い
- 強制執行などの法的手続きに利用可能
見本イメージ
大阪地方裁判所
民事第○部
判決正本
事件番号 令和○年(ワ)第○号
原告 ○○○○
被告 ○○○○
・・・
表紙に「正本」と明確に記載されているのがポイントです。
9.謄本の見分け方
謄本は、原本の内容をすべて忠実に写したもの。
法的な執行力はなく、「内容確認・証明用」として利用されます。
特徴
- 表紙に 「○○謄本」 と明記されている
- 原本の内容をそのまま写したもの
- 多くの行政手続きや身分関係の証明で使われる
見本イメージ(戸籍謄本)
戸籍謄本
本籍 大阪市中央区○○町○丁目○番
筆頭者 山田太郎
・・・
見本イメージ(登記簿謄本)
不動産登記簿謄本
所在 大阪市中央区○○町○丁目
地目 宅地
地積 ○○平方メートル
・・・
どちらも、タイトルに「謄本」としっかり書かれているので一目で分かります。
10.正本と謄本の使い分け
種類 | 表記の仕方 | 法的効力 | よく出てくる場面 |
---|---|---|---|
正本 | 表紙に「正本」と明記 | あり(強制執行に使える) | 裁判判決、行政処分書 |
謄本 | 表紙に「謄本」と明記 | なし(証明・確認用) | 戸籍謄本、不動産登記簿謄本 |
11.まとめ
- 原本:最初に作られたオリジナル
- 正本:原本と同じ効力を持つ正式な写し(強制執行などに利用可能)
- 謄本:原本の内容を忠実に写したもの(内容確認用)
- 正本か謄本かは、書類の表紙に必ず書かれている
- 強制力があるのは「正本」、内容確認用は「謄本」
- 日常生活でよく使うのは「謄本」
つまり、書類を受け取ったらまず タイトル部分に「正本」か「謄本」か が書かれているか確認すればOKです。
普段はあまり意識しませんが、契約・登記・裁判といった人生の大事な局面で必ず関わってきます。
仕組みを理解しておくと、手続きの際に「なぜ正本が必要なのか」「謄本で十分なのか」といった判断もしやすくなるでしょう。
大野