自筆証書遺言と公正証書遺言の違い│どちらを選ぶべき?

目次

遺言を残せる人

遺言書は15歳になれば残すことが可能となっています(民法961条)

未成年者が遺言書を残せる理由については民法の考え方(未成年者が遺言をするための条件)をご参照ください。

遺言の効力の有無

遺言の作成については法律上、厳格性が求められているため、

方式を守っていない遺言は効力を有しません(民法960条)
遺言能力がない者がした遺言も効力を有しません(民法963条)

遺言の方式

①自筆証書遺言(民法968条)
遺言を残す本人が、遺言の内容(全文)を自筆で書き、署名押印する遺言書です。

②公正証書遺言(民法969条)
遺言者が公証人に遺言の内容を伝え、公証人が遺言書を作成し、公的に証明がされた遺言書です。

③秘密証書遺言(民法970条)
遺言の内容を秘密にしたうえで遺言書を作成し、その存在を公証人等に確認してもらい、封筒に本人と公証人等が署名押印をする遺言書です。
遺言の内容は秘密にしながら、遺言書の存在を明確にすることができる方法です。

自筆証書遺言(民法968条)とは

自筆証書遺言とは、遺言者本人が全文を自筆で書いて作成する遺言書です。
特別な機関を利用せずに作成できるため、比較的手軽な方法として知られています。

最大の特徴は、費用をほとんどかけずに作成できる点です。一方で、形式や内容に厳格なルールがあり、それを満たしていない場合には無効となるリスクがあります。

また、作成後は基本的には本人が保管することになるため、紛失や改ざん、発見されないリスクも考慮する必要があります。

作成者署名押印証人検認
本人本人不要必要

遺言の内容をすべて自らで自筆しますが、財産目録を添付する場合、財産目録は自書せずにパソコン使用して作成してもよいことになりました。


★デメリット
遺言書が無効になる可能性が高い
 ・自筆することから記載内容に誤りが発生することが多い
 ・簡単にできるため方式を守られていないことが多い

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場で公証人が関与して作成する遺言書です。
遺言者の意思を公証人が確認し、法律に沿った形で文書化します。

公正証書遺言の大きな特徴は、形式不備による無効リスクが極めて低いことです。
原本は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんの心配もありません。

一方で、公証役場への出向や証人の立ち会いが必要となるため、手間や費用がかかる点はデメリットといえます。

作成者署名押印証人検認
公証人
(口述を筆記する)
本人
証人
公証人
証人2人以上

不要

★デメリット
費用、人員がかかる
 ・公証人などの専門家への費用がかかる
 ・証人2名以上の立会が必要

秘密証書遺言

遺言の内容は秘密にしたままで、遺言書の存在のみを公証人が行います。
遺言書の存在が明確になるため、遺言書が見つからないということが発生しにくくなります。

作成者署名押印証人検認
だれでも本人
封筒に本人、証人および公証人
公証人1人
証人2人以上
必要

★デメリット
遺言書の記載内容まで公証人が確認することはない
 ・記載内容に不備が発生する
 ・法律の方式に沿ったものでない場合がある検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせること

そして、遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

項目自筆証書遺言公正証書遺言
作成方法本人が全文を自筆公証人が作成
費用ほぼ不要公証役場手数料が必要
無効リスク比較的高い極めて低い
紛失・改ざん起こり得るほぼなし
作成の手間少ない一定の準備が必要
安全性低〜中高い

どちらが優れているというよりも、状況によって向き・不向きがはっきり分かれる点が重要です。

向いている人・向いていない人

自筆証書遺言が向いている人

次のような場合には、自筆証書遺言が選択肢となることがあります。

  • 財産の内容がシンプルである
  • 相続人同士の関係が良好で、争いが想定されにくい
  • まずは最低限の意思表示を残したい
  • 費用をできるだけ抑えたい

ただし、形式不備による無効リスクがあるため、内容確認は慎重に行う必要があります

公正証書遺言が向いている人

一方、次のようなケースでは、公正証書遺言が適しています。

  • 相続トラブルをできる限り防ぎたい
  • 財産の種類や内容が複雑である
  • 相続人以外への遺贈を考えている
  • 高齢で、将来の判断能力に不安がある

安全性や確実性を重視する場合には、公正証書遺言が選ばれることが多いのが実情です。

よくある誤解

「自筆証書遺言は簡単で安全」という誤解

自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、形式不備や記載ミスによって無効となるケースが少なくありません
「書いてさえいれば大丈夫」という理解は誤りです

「公正証書遺言は特別な人だけのもの」という誤解

公正証書遺言は高額な財産を持つ人だけのものと思われがちですが、
実際には将来の不安を減らしたい一般の方にも広く利用されています

「後で書き直せばいい」という誤解

遺言書は、判断能力が低下した後では作り直しができません。
「必要になってから考える」という姿勢が、結果的にリスクを高めることもあります。

法務局の自筆証書遺言保管制度について

自筆証書遺言には、法務局で保管できる制度があります。
この制度を利用することで、紛失や改ざんのリスクを一定程度軽減することができます。

ただし、内容の有効性や適切さまで保証されるわけではありません
制度の利用が適しているかどうかは、状況に応じた判断が必要です。

👉法務局の自筆証書遺言保管制度の詳しい解説はこちら

検認とは何か?

検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせること

そして、遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。

遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。

どの方法を選ぶか迷ったら

自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを選ぶかは、家族構成・財産状況・将来の不安要素によって異なります

一度作成した遺言書が、かえって問題を生まないようにするためには、作成前の段階で専門家に相談することが重要です。

👉遺言書・遺言サポートのご相談はこちら

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