時は昭和、頑固な男がいた。
彼の名は太郎
集団就職で都会に出てきたが、今まで人付き合いが苦手な太郎には都会の風は肌に合わなかった。
2年ほどで会社を退職し、田舎へ帰り、父親が漁師であったことから、その手伝いをすることにした。
幼いころから、父親の背中を見ていた太郎は要領よく仕事をこなすことができた。
ある時、父親から「一人で漁に出てみろ」といわれ、父親の見よう見まね必死に漁をしたが、一匹も大物を連れることなく、帰港した。
父親からは何も言われなかった。
太郎は「漁は父親がやっていたからやっているだけで得意なことではない。天候も悪かった。おれが悪いのではない」と自分に言い聞かせ父親の手伝いを再開した。                         
初めて漁に出て以来、ときどき父親は太郎にこんなことを言った。
「お前、何がしたいんだ」と。
太郎はこの質問に答えることができなかった。
太郎は父親にこう聞いた「親父ならどう答えるんだ」と
父親は「漁がしたいからこうやって毎日漁に出ている。趣味を職業にできていいなって言われることもあるがな」
「なんでもいいんだ、したいことは。ただしたいことをする以上、責任を伴うが、母さんも、お前も養うことができたそれでいいんじゃないか」
太郎は自問自答してみた。
そう、太郎はしたいことなど考えたことがなかった。
集団就職をしたのも時の流れにのっただけ
都会に行って田舎に戻ってきたのも環境がわるいから
何のために生きているのか・これからどう生きるのか、そんなこと考えたことがなかったのだ。                    続く(大野)